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【介護の心理学1】単純接触効果(ザイオンス効果)

単純接触効果(ザイオンス効果)

何度も聞いている曲を好きになってしまう

人間は、自分と何度も接触しているものが好きになります。何度も聞いている曲、いつもの居酒屋、住み慣れた町・・・どれも心地がよいはずです。ここで大切なのは接触回数です。接触しているモノや人への好意は、接触回数に依存しているからです。

これは認知心理学の世界ではとても有名な理論で、特に「単純接触効果」と呼ばれます。発見者であるアメリカの心理学者ロバート・ザイオンスの名をとって「ザイオンス効果」と言われることもあります。

小学生のころ好きだった人のことを思い出してみてください。意外と、隣の席の人だったりしませんか?または、同じ塾に通っていたり、自宅が近くだったりと、他の人よりも接触回数が多かったはずです。

はじめは耳障りだったテレビCMも、何度もみているうちに楽しめるようになります。いろいろなところで見かけるブランドには、安心感を持ったりします。毎朝同じ電車に乗っている人は、どこか憎めない感じがしてきます。こうしたことも全て「単純接触効果」で説明することが可能です。

企業のマーケティングや営業などが、この「単純接触効果」を使って、少しでも売り上げをあげようとしているのは、すぐに気がつくと思います。怖いのは、私たちはそれと知らないうちに、特定の商品を「好きにさせられている」ということです。

「単純接触効果」を介護に応用するとしたら?

以下、この「単純接触効果」を介護の場面に応用するとしたら、どのようなことが考えられるか、3つほど例示してみます。もちろん、こうしたこと以外にも応用の可能性があるので、そこは、それぞれに考えてみてください。

1. 要介護者に馴染みの深いものを大切にする

要介護者が、長年使っているものや、大事にしているものは「単純接触効果」によって、単なるモノ以上の価値があります。大事な視点としては、そうしたモノは、本人が特に好きと言っていなかったものでも構わないということです。何度も接触していたモノには、可能性があります。こうしたモノは、いろいろな場面で活躍します。たとえば、緊急で入院しなければならなくなったとき、そうした馴染みのモノが邪魔にならない程度の大きさであれば、病室に持ち込んだり、本人に持たせてやることが、要介護者をほんの少しだけ安心させるかもしれません。

2. ヘルパーやケアマネを毛嫌いしている場合

まだ介護されることに慣れておらず、要介護者が、ヘルパーやケアマネといった「他人」を自宅に入れることを拒否することがあります。そうしたときは、いきなりヘルパーやケアマネを自宅に入れないまでも、外出先などで(偶然を装って)少しずつ接触回数を稼いでいくと、ある日「あの人だったら、自宅に入れてもいい」と言い出すこともあります。実際にこの手法は、ベテランのヘルパーやケアマネのほうから、提案されることもある方法です。何度も接触しているうちに、その人物は「他人」ではなくなるということです。

3. 要介護者がデイサービスに行きたがらない場合

これもよくあることですが、要介護者が、デイサービスに行きたがらないことがあります。そうしたとき、そのデイサービスに、要介護者の友達がいれば(少し)可能性が上がります。友達がいないなら、そのデイサービスに通っている人と、デイサービスの外(たとえば主治医のところでなど)での接触回数を稼いでから「◯◯さんも、あそこのデイサービスにいるらしいよ」と説得すれば、可能性は(少し)上がります。最近は、託児所とデイサービスが併設されている場合もありますが、そうしたときは、その託児所に行っている子供との接触回数が上がれば、これもまた可能性が(少し)上がります。

もちろん、接触の質も重要

「単純接触効果」の背景は、人間は、はじめて見たモノや、会ったりした人には「警戒心」を抱くということです。この「警戒心」は、接触回数によって消えていくというところが「単純接触効果」のポイントです。

とはいえ、はじめから、何らかの理由で嫌いなモノとの接触を繰り返しても、それを好きになるというのは難しいです。それこそ、苦手な虫などは、たとえ何度見ても、好きになれたりしないでしょう。

ですから、いくら「単純接触効果」にパワーがあるとはいえ、その接触の質も重要であることは言うまでもありません。さわやかな笑顔や、丁寧な態度といったことと合わせて接触回数を稼がないと、かえって逆効果ということもあるわけです。
 

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