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【介護の心理学16】シャドウ(shadow)

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(door in the face technique)

生理的に、どうしても受け入れられない人物

誰でも、生理的に、どうしても受け入れられない人物というのに出会ったことがあるかもしれません。介護をしていると、自分の親が、そういう対象となることもあると思います。その背景となるところについては、著名な心理学者、カール・ユング(Carl Jung)がシャドウ(shadow)という仮説を立てています。

深層心理に関する先駆的な研究をした心理学者として名高いユングは、今でこそ、その仮説の少なからぬものが否定されていたりもします。しかし、ユングが開いた、人間に関する新しい見方そのものは、その後の心理学の発展に、大きな貢献をしていることは疑えません。

ユングは、人間は、成長の過程において「生きてこなかったもうひとつの側面」を生み出すと考えました。倫理的に正しくないと考えたり、正義に照らして間違っていると考えたりして、自分自身の中にある性格を抑圧してきたと言ったほうがわかりやすいかもしれません。

そしてユングは、私たちが生理的にどうしても受け入れられない人物というのは、そうして抑圧してきた自分自身の鏡であると考えたのです。実は、自分の中にも、受け入れられない人物とよく似た性格を持った暗黒面があるということです。ユングは、この暗黒面のことを「シャドウ(=影)」と呼びました。

シャドウを意識すべき具体的な例

シャドウとしては、そもそも、同性に対して感じやすいという指摘があります。男性と女性で、成長の環境も過程も異なり、それぞれに文化と呼べるものがあるからでしょう。以下、シャドウを意識すべき具体的な例をいくつか列挙してみます。

なお、ここで列挙するのは、あくまでも、考えるきっかけです。必ずしも、こうした状況に当てはまるからと言って、それが全てシャドウの事例であると主張するつもりはありません。あくまでも、可能性としてとらえていただけたらと思います。

・非科学的なことを言う人に大きな嫌悪感を感じるエンジニア
・専業主婦の存在が嫌で嫌で仕方がないキャリアウーマン
・お金儲けという言葉に敏感で強い反発をする介護職員
・チャラチャラしている男性を異常に嫌がる硬派の男性
・夢を追いかけ生活の安定しないアーティストを極端に嫌う社会人

気がつくと思いますが、シャドウというのは、そのまま放置しておくと、場合によっては差別にもつながりかねません。嫌うのは勝手なことですが、それを相手に伝わるまでに行き過ぎるのは、決して良いことではありません。

シャドウを脊髄反射的に否定するのではなく、向き合う

自分でも不思議なくらいに嫌いになる存在があるということが、そもそも、普通のことではありません。しかし、シャドウをただ毛嫌いし続けるだけでは、自分自身をも否定するということにもつながります。それはあくまでも抑圧にすぎず、暗黒面の克服とは言えません。

そこでユングは、シャドウと向き合い、それを受け入れていくことが、自分自身を受け入れ、精神的な成長を果たしていくために重要だと考えたのです。生理的に受け入れられない人物に近づき、それを許すことができたら、自分の中の暗黒面も(かなり)解消されます。

逆に、自分の中の暗黒面と向き合うことで、生理的に受け入れられない人物にさえ、なんらかの共感を得ることができたりもします。これは恐ろしいことですが、私たちの中には、犯罪者になりえるような暗黒面も存在しています(だからこそ、人間は戦争もできてしまうのですが・・・)。

もちろん、シャドウが犯罪者であるような場合は、わざわざ近づく必要はありません。また、無理に共感を示す必要もないでしょう。ただ、そうした暗黒面が自分の中にも存在しており、それを飼いならす方法については、自分なりに考えておく必要もあるかもしれません。

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