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人間は、特に大きな状況の変化がない限り、現状維持を望む傾向があります。この傾向のことを特に、現状維持バイアス(status quo bias)と言います。未体験のことにトライすると、無駄に失敗するリスクがあるからでしょう。
たとえば、どこかの街で食事をしようとしたとき、吉野屋があったとします。その隣には、名前も知らない牛丼屋もありました。どちらも、同じ価格帯です。こうしたとき、私たちは、あえて知らない牛丼屋にチャレンジすることなく、吉野屋を選ぶことがわかっています。
もしかしたら、その知らない牛丼屋は、ものすごく美味しい牛丼を提供してくれるかもしれません。しかし人間は、どうしてもそれを選ぶ必要性に迫られない限りは、過去に経験したことの範囲内での選択を望むのです。
生物学の視点からすれば、これは当然の態度です。見たこともないものを食べれば、それは毒かもしれません。行ったことのない道では、猛獣に襲われるかもしれません。触ったことのないものに触れば、かぶれてしまうかもしれません。現状維持バイアスは、自然淘汰を生き残るための特徴でもあるわけです。
これが、経営学において、ブランドが重視される理由でもあります。その商品が安全であり、効果があるということが広く知られていれば、現状維持バイアスを持っている人間の世界では、さらに広く受け入れられる可能性が高まるのです。
現状維持バイアスを別の角度から考えると、私たちは、取得よりも喪失のほうが大きく感じられるということでもあります。簡単に言えば、持っていないものを得られなくてもよいのですが、持っているものを失いたくはないということです。
ある実験では、利益と損失が同じ金額の場合、利益を得る喜びよりも、損を出したときの悔しさのほうが、約2〜2.5倍も大きく感じられるという結果が出ています。ここから、私たち人間には、損失を回避するように行動する癖(損失回避性)があることがわかります。
私たちは、損失を恐れるからこそ、いつものレストラン、いつもの座席、いつもの道、いつものブランド、いつもの電車という具合に、過去に安全だった選択を繰り返そうとするわけです。その背景には、自然淘汰という進化上の意味があるのですから、こうした現状維持バイアスから自由になることは、かなり難しいことだと言えます。
介護の現場にも、多数の現状時バイアスを見つけることが可能です。そうしたものの中で、特に、将来の問題に発展しやすいものについて、3つほど事例を考えてみます。他にも多数あるので、自分でも考えてみてください。
ヘルパーやケアマネとの相性が良くなくても、現状維持バイアスによって、それを我慢するケースは本当に多いようです。もちろん、多少の相性くらいで、いちいち担当者を変えていては、かえって面倒が増える可能性もあります。しかし、お互いに本当に嫌な気持ちになっているのにも関わらず、その関係性を維持しようとするのは、精神衛生的にもよくありません。私たちは、誰とでも仲良くできるようにはできてはいません。
良い介護施設に入っていても、病気で入院したり、介護施設内でトラブルがあったりすれば、その介護施設から退所させられることも少なくありません。それを想定していないと、いざというときに、パニックになってしまいます。少なくとも、介護施設から「出て行って欲しい」と言われたときに、どう行動するかということについては、シミュレーションをしておく必要があります。介護をする家族としては、考えたくないことですが、それでも、事前に話し合っておくべきことでしょう。
これは、本当に恐い現状維持バイアスです。誰もが老いて、介護が必要になり、死んでいくわけです。それでも私たちは、自分だけは大丈夫、自分の配偶者だけは大丈夫、自分の親は大丈夫と考えてしまいます。身体が衰えてきたら、トレーニングを行って、健康維持に努めないと、重い介護が必要な状態に至ってしまったりもするのです。また、室内につまずいて転びやすいところがあっても、それをそのままにしておくのは、よくないことです。健康維持のためには、現状維持バイアスを意識して、そこから少しでも離れないとならないこともあります。
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