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【介護の心理学8】アフォーダンス(affordance)

アフォーダンス(affordance)

アフォーダンス(affordance)とは?

英語の「アフォード(afford)」は「提供する」という意味を持つ動詞です。この名詞が「アフォーダンス(affordance)」になります。名詞なのですが、昔からあった言葉ではなくて、アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソンが作り出した造語と言われます。

心理学者が作った言葉ですから、それは確かに「提供」という意味にもなるわけですが、実際に示している概念は、もっと深いものです。ここにあるのは、環境が、人間の行動を「誘い込む」という概念です。環境が、特定の行動に動機を「提供」するというとでもあります。

たとえば、山道に、腰掛けるのにちょうどよい切り株があったとしましょう。この切り株は、イスとして作られたものでなくても、ハイキングをしている人間の、座るという行動を誘い込みます。同様に、壁に、すり抜けるのにちょうどよい隙間があれば、私たちは、ついつい、そこに入ってみたくなります。これが「アフォーダンス」です。

また、子育てという側面からは、子供に読ませたい本があるなら「これを読みなさい!」とやると、反発もされるでしょう。しかし、その本を、さりげなくトイレに置いておくと、子供はいつか、その本に手を伸ばすはずです。この、ついつい、手を伸ばしてしまうところが「アフォーダンス」です。

そうして考えてみると、この世界は「アフォーダンス」で溢れていることに気がつくでしょう。商品の設計では、マニュアルがなくても使えるように配慮するときも、この「アフォーダンス」を強く意識しています。

介護の世界のアフォーダンス

もちろん、介護の世界にもたくさんの「アフォーダンス」があります。典型的なものを、以下3つほど取り上げます。これ以外にもたくさんありますし「アフォーダンス」を上手に利用すると、介護の負担も減らせる可能性があるので、自分でも考えてみてください。

1. 日常生活の中にリハビリを組み込む

リハビリの専門職は、施設で機材を使うようなイメージ通りのリハビリばかりを考えているわけではありません。むしろ、普通に生活をする中で、上手に身体を動かすことで、結果としてリハビリに繋げてしまえるように、様々な配慮をしています。特に、要介護者(利用者)が自分でやれることは、できるだけ自分でやってもらい、支援しすぎないことは、特別に意識している専門職が多いです。ここを理解しておかないと「うちを担当している介護職は、ちゃんと助けてくれない」というクレームにつながるので注意してください。機材を利用したリハビリも大事ですが、プライドを刺激して、自立した日常生活に気持ちを向けることが、リハビリへの「アフォーダンス」になっているのです。

2. 要介護者の趣味を刺激する

たとえば、目の前に白いキャンパスと色鉛筆があれば、なんとなく絵を描きたくなるものです。カラオケセットでもあれば、歌いたくもなります。よいカメラがあれば、撮影したくなります。こうしたことも、典型的な「アフォーダンス」です。高齢者になり、仕事も引退したりしていると、趣味でもないと、なかなか外出しなくなります(特に男性は顕著)。趣味を持ってくれれば、介護予防やリハビリにもなります。そこで、要介護者の周囲にいる人々は、自然に趣味が得られるような工夫をすることが多いです。うまくいかないケースも多いですが、昔の趣味に関連するものを誕生日のプレゼントとしてあげたりするのは、有効な手段です。

3. 生活の複雑性を下げない

なんでも便利で、シンプルなことはよいことのように思われます。しかし、先のリハビリの話にもにていますが、楽であることは、脳や身体を使わないということでもあります。結果として、フレイルに至り、そこから要介護になることも少なくありません。ですから、至れり尽くせりの高級老人ホームに入所することには、大きなリスクもあります。たとえば、ボタンの多いシャツを着るのは、トレーナーを着るよりも面倒なことです。しかし、シャツを着るために、日々指先を動かすことは、それ自体が介護予防になったりもします。複雑な生活は大変なことですが、大変なことをこなす中で、人間は、自らの能力を高く維持していくこともできるのです。

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