KAIGOLABの最新情報をお届けします。
東京都社会福祉協議会(東社協)は、社会福祉の向上をめざし、広報・啓発・調査研究・研修・ボランティア・市民活動の推進・施策提言など、幅広い活動を行っている非営利の民間団体です。
この東社協が主催する「東京都・介護保険居宅事業者連絡会」(2016年2月26日)において、KAIGO LAB 編集長が『日本の社会が介護のプロに期待すること』というタイトルで、講演を行いました。
東京都・介護保険居宅事業者連絡会は、東京都内で「居宅サービス」を提供している事業者(約400事業者)で構成されている団体です。簡単に言えば、東京都の「在宅介護」を支えている介護のプロたちの団体です。この団体の、年度末の「総会」という重要な場面での講演となりました。
講演は、介護には辛いことも多いけれど、介護は、人間にとって大きな成長のチャンスでもあるという事実からはじめられました。背景にあるのは「心的外傷後成長(PTG:post-traumatic growth)」の理論です。
次に、人間の学習に関する基本的な理論についての説明が行われました。組織心理学者クリス・アージリスとドナルド・ショーンが提唱した「ダブルループ学習」という概念(1978年)が提示され、介護と学習の関係性について言及しました。
それから、日本の介護業界の「財務構造」がマクロな視点から説明されました。日本の介護を支えている財源は、その多くが現役世代から徴収されたもの(介護保険料+税金)であるという事実から、この世代が「介護離職」をしてしまうと、大変なことになるという事実が述べられました。
これらの前提をふまえて「介護離職」について、その特徴、構造と課題が説明されました。「介護離職」を減らすために、介護のプロとしてやれること、やらなければならないことが示されました。
介護のプロは、日本における「介護の教師」としての役割があり、特に、現役世代への介護の啓蒙に対して責任を持っていくべきという提言がなされました。もちろん、こうした活動はボランティアでは続けられないので、ビジネスとして介護教育をしていくスキームについても言及されています。
Q1:「介護離職」を止めるというのは、介護責任を家族から社会に変えるという「介護保険の精神」と乖離していない。しかし現状では、どういうわけか、その理想が失われ、どんどんおかしな方向に向かっているように見える。なぜだと思うか?
A1:このままでは大変なことになるというのは同感。しかし、理念は今も(みなさまの中に)残っている。問題は、理念実現のアプローチがおかしなことになっていること。この原因は、今日の講演で述べた「財務構造」の設計に原因がある。これを根本から見直す必要がある。問題意識をもった官僚とつながり、しっかりと政策提言を行い、政治を動かしていくべき。ただ待っていても、変わらない。
Q2:2025年には、今の2倍(20兆円)必要となる介護の財源について。倍にするのではなく、今と同じ財源でも回せるように、効率を高めていくというアプローチはないのか?
A2:当然、効率を高めていくアプローチ、特に介護ロボットには期待している。ただ、それでも私としては、20兆円の確保をして、それを介護職の待遇改善に使いたい。効率を高めれば、その分だけ、介護職の待遇が改善されるようにしないと、介護業界はもたない。待遇を改善し、優秀な人材を確保・教育するということは、ほかの業界でも基本的なこと。基本を外れて、よい業界は作れない。
Q3:「介護離職」にしても「介護職の待遇改善」にしても、東京と地方で、状況がかなり異なると思う。地方の介護現場では、介護職の確保はできている印象。これについては、なにか意見はないだろうか?
A3:おっしゃるとおり。今日の話は、東京都の介護事業者向けなので、東京都の話をしたつもり。地方は、東京のように、給与だけが収入ではなく、魚や野菜、各種特産物の生産物のやりとりや、安定した人間関係などがベースにある。ここから、介護職の確保も、東京とはかなり事情が異なる。ただし、だからといって介護職の待遇がいまのままでよいとは思わない。意味のある労働には、十分な対価が支払われるべき。
KAIGOLABの最新情報をお届けします。