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【講演録】男性介護セミナー(東京都主催)

講演録:男性介護セミナー(東京都主催)講演当日の様子(参加者の許可を得て撮影・掲載しております)

増え続ける男性の介護

仕事と介護の両立に苦しむ人は増加傾向にあります。そうした中でも問題を抱えやすいのは、男性が主たる介護者として、介護に関わるようなケースです。特に東京都では、男性の介護離職が、全国を上回るペースで増加しているのです。

介護離職の削減は、政府が目指す「1億総活躍社会」における重点事項です。その対策が、正しい方向に動けているかというと、介護現場からは多くの批判もあります。だからといって、介護業界に関わる人間が、これに対してなにもしないわけにはいきません。

こうした背景を受けて、2017年1月21日に、東京都主催の男性介護セミナーが開催されました。このセミナーの講演者として、KAIGO LAB 編集長の酒井穣が登壇させていただきましたので、こちらで講演報告をさせていただきます。

講演録:介護離職をするとどうなるのか?

まず、介護離職をして、その後、新たな職場で仕事を得たとしても、年収は男性で4割減、女性で半減というデータがあります(産経ニュース, 2016年)。これも、あくまでも次の仕事が見つかった場合です。現実には、再就職までに1年以上かかっているケースが大半です。

現在、仕事をしながら介護をしている人のうち約3割は「これからも仕事を続けられますか?」という質問に対してNoと答えています。また、介護離職した人の過半数は「できれば仕事を続けたかった」と回答しているのです(三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 2012年)。

介護の負担には、大きく(1)肉体的負担(2)精神的負担(3)金銭的負担があります。介護離職は、このうち(1)(2)の負担を下げたいと考えてのことでしょう。しかし、実際に介護離職をした人の調査では、介護離職をすると、これら3つの負担が全て上がってしまうことがわかっています。

もちろん、ケースバイケースです。しかし、基本的には、介護離職は避けるべきことです。どうしても離職しなければならない場合は、最終的な着地として、自分自身も生活保護を受けるところまで行く可能性があることを覚悟しないとなりません。介護離職は、それくらい危険な選択なのです。

講演録:介護ジャーニー・マップ

では、実際の介護はどのように進むのでしょうか。そして、その中で、介護離職が発生しやすいタイミングはどこなのでしょう。それを理解するためには、介護ジャーニー・マップ(酒井, 2017年)を把握する必要があります。

介護ジャーニー・マップ

介護はまず「プレ介護期」からはじまっています。場合によっては、自分が行っていることが介護だという自覚のない時期です。このころは、負担もまだ小さいため、人間関係が破綻したりすることのない、牧歌的な時期とも言えます。不安はあるものの、介護を軽く考えている可能性もあります。介護の相談は、家族の誰かになされているのが普通です。

次に訪れるのは「介護パニック期」です。介護は、ある日突然はじまります。入院先からいきなり自宅に帰され、これからどうするのか、途方にくれます。誰に相談してよいかもわからず、多くのことを、自分でこなすしかない状況です。仕事も休みがちになります。介護離職が起こりやすいのは、この時期です。介護保険制度に関する知識もないので、介護を続けることの負担を見積もり間違います。

最後に訪れるのは「介護安定期」です。ケアマネをはじめとした、多くの介護職の名刺が手元にあります。この人脈によって、介護の負担は「介護パニック期」と比較すれば、劇的に下がります。それでも介護は大変ですが、仕事との両立も冷静に判断できるようになります。そもそも、介護サービスを使うためにはお金も必要です。そのお金を稼ぐ手段としての仕事を失ってしまえば、また「介護パニック期」へと逆戻りです。

講演録:男性介護の特徴に関して

男性の介護には、いくつか特徴があります。ここで述べる特徴は、統計的に明らかになっているとは言えないものではあります。しかし、介護現場からの多くの聞き取りから見えてくるものであり、ヒントにはなると思います。統計的事実ではないことについては注意しながら、それぞれに考えてみてください。

まず、男性には、周囲に介護の相談することができず、必要でも「助けて」と言えないという特徴があるようです。男性は、そもそも自らの弱みを周囲にさらけ出すのが苦手です。道に迷っても、周囲の人に道をたずねることさえ、躊躇してしまいます。男性の場合は、本当はわからないことだらけでも、誰かに「助けて」と言えず、そのまま介護を抱え込む傾向があります。

次に、男性は介護にまじめすぎて一生懸命になり、誰かに迷惑をかけまいと頑張りすぎるという特徴があるようです。「あなたくらい、介護に一生懸命の人は見たことがない」と言われることに喜びを感じてしまうのは、逆に、よくないことです。大事なのは結果であって、プロセスではないからです。一生懸命になった結果として虐待に至ってしまうこともよくあります。介護のプロである介護職の助けをかりながら、負担を調整することが必要です。

そして、男性は、家族会のような新たな集団に所属するのが困難だという特徴があるようです。男性は、本能として、集団内での序列を気にする傾向があります。ですから、新たな集団に入ろうとするとき、マウンティング(上位の男性から威圧的な態度で対応される)があります。これが嫌で、なかなか、所属する集団を自由に選ぶことができないのです。

講演録:男性はどうすればいいのか?

まず、まだ介護がはじまっていないとしても、不安があるなら、自治体の介護窓口を訪れてください。そこで、その自治体の介護に対する考え方や、いざというときの相談先を確保しておきましょう。また可能なら、地域包括支援センターにも行っておくとよいでしょう。

介護がはじまっているなら「介護パニック期」に注意し、なるべく早くそこを切り抜けてください。介護について理解を深め、自治体の相談先を知り、介護職の名刺がたまってきてたら、介護は絶対に楽になります。早合点して、介護離職をしないように意識する必要があります。

そして、自分と同じ悩みを持つ仲間を作ってください。マウンティングは嫌ですが、そこは我慢して、できるだけ家族会に参加するようにしてください。どこの家族会がいいのかについては、地域包括支援センターやケアマネに相談すると良いでしょう。

男性は、一旦覚悟を決めたら、勉強を楽しめる側面もあります。介護においても「知は力なり」です。優れた介護には、医学、生理学、薬学、心理学、社会学、そして哲学といった、多くの学問からの知識が求められます。知的に、非常に刺激的なものですし、特に、哲学的な側面については、多くの気づきがあるものと思います。

人間には、トラウマになるような苦労を乗り越えると、大きく成長するという可能性(心的外傷後成長/PTG)が指摘されています。介護は、非常に辛いものです。当然、それぞれに内容は異なります。それでも、そうした経験を通した学びや成長もあるのです。

※参考文献
・産経ニュース, 『衝撃…介護転職した人の年収は男性4割減、女性半減! 「介護離職ゼロ」掲げる政府や企業は有効な手立てを打てるのか?』, 2016年2月18日
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 『仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査』, 平成24年度厚生労働省委託調査
・酒井 穣, 『男性介護セミナー』, 2017年1月21日

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