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車椅子の歴史は、かなり古いと考えられています。車椅子は、椅子と車輪が普及していれば、自然発生的に生まれると考えられるからです。必ずしも障害者向けとして発明されたわけではなく、むしろ、生活上の利便性から考案された可能性も指摘されています。
椅子の起源ははっきりしていませんが、遅くとも古代エジプト(紀元前3000年)には登場しています。また、車輪は古代メソポタミア(紀元前5000年)で発明されたと考えられています。ここから、車椅子の登場も紀元前であり、紀元前4000年頃の地中海東岸が起源として有力視されているようです。
紀元前1300年頃の古代ギリシアでは、車輪のついた荷台を馬に引かせる戦車(チャリオット)が登場しています。より一般的な家具と車輪をつないだ最も古い記録としては、紀元前530年頃の古代ギリシアの花瓶に描かれた絵があります。この絵では、子供用のベッドに車輪がつけられています。
車椅子が存在していたことを示す最古の証拠は、525年に中国で描かれた絵です。証拠としてはこれが一番古いのですが、車椅子は、もっと古くから存在していたと考えられています。面白いところでは、三国志の英雄とされる諸葛亮孔明(181〜234年)も、車輪のついた椅子を使っていたとされています。
ただし、この諸葛亮孔明に関する記述は、歴史的には信頼性が低いとされる『三国志演義』からであり(おそらく)史実ではありません。とはいえ『三国志演義』自体が、明(1368〜1644年)の時代に成立した歴史小説です。ですから、この年代までには、車椅子は、中国の一般大衆にも認知されるものになっていたことになります。
現代の車椅子に近いデザインは、1595年に描かれたスペイン王フェリペ2世の絵に残されています。この車椅子は、椅子の足に4つの車輪が付いていて、他者がそれを背後から押して動かせるようになっています。そして、車椅子が商業的に生産され販売されはじめたのは、18世紀のヨーロッパでした。
今、とても話題になっている車椅子があります。セグウェイの開発者だったディーン・カーメン(Dean Kamen)が創業したDEKA社が開発している「iBOT」です。この画期的な車椅子は、実は、セグウェイの開発以前から製造されていました。しかし価格が約270万円と高額だったため、販売不振となり、一度は2009年に製造が中止されていました。
ここにトヨタが着目し、より安価で安定した生産を目指し「iBOT」の復活プロジェクトが始動しています。セグウェイのように2輪での安定走行も可能なため、車椅子に乗った人が立って歩く人と同じ目線で移動することもできます。以下、この車椅子の動画(1:07)になります。
車椅子は、自分で車輪を押すこともできるように設計されています。しかし現実には、自分で車椅子を動かしているのは2割程度にすぎません。約8割のケースで、自分以外の誰かに押してもらっているのです。
車椅子には、自分で自分の移動をコントロールする(自助)ための器具としての可能性があります。しかし現実には、介護者(介護職や家族)が要介護者を移動させるために利用されていることが多いのです。
しかし「iBOT」のような車椅子が安価に提供されたら、背後から誰かに押してもらわなくとも、段差も越えて、好きなところに移動できるようになります。そうなれば、世界中の多くの人の自立が促進されるでしょう。
こうした新技術が紹介されるときは、価格が問題視されることが多いものです。しかし、いかなる新技術であっても、市場がそれを受け入れれば、価格は競争と生産技術の成熟によって必ず安くなっていきます。車椅子の未来が、人々の自立をより促進する方向に行くことは確実です。
※参考文献
・WheelchairNet, “Wheeling in the New Millennium: The history of the wheelchair and the driving forces in wheelchair design today”, June 13, 2002
・三浦 研, et al., 『要介護度および施設種別からみた歩行・移動に関する実態とその環境整備に関する基礎的研究:同一地域におけるアンケート調査から』, 生活科学研究誌 6, 105-112, 2007
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