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少子化対策では、高齢者の医療・介護のための財源が確保できない理由

少子化対策では財源の確保はできない

日本の医療・介護は崩壊しつつあるという現実

高齢者の医療・介護のための財源(お金)がなくなってきていることは、過去に何度も述べてきました。つい最近も、介護保険料が過去最高になるという話が、いろいろなところでニュースになっていました。

日本の医療・介護の財源は、いま働いて税金を納めている現役世代であること(賦課方式)についても、このサイトで言及してきました。賦課方式を前提としている限り、現役世代が減って、高齢者が増えるという少子高齢化の流れで財源がなくなるのも当然です。

医療・介護の費用がかさむのは「後期高齢者(75歳以上)」です。そして、人口ボリュームの多い団塊の世代が「後期高齢者」になるのは、2025年からです。そのため、2025年には、今の2倍程度の財源が必要という試算がありますが、そんなお金はどこにもありません。これは特に「2025年問題」と呼ばれています。

こうした記事へのリアクションとして「少子化対策をすればよいではないか」という意見がありました。なるほど、少子化対策によって子供が増えれば、その子供は将来の現役世代として賦課方式を支えてくれる可能性があります。しかし・・・これは残念ながら(もはや)正しくないのです。少し詳しく考えてみます。

少子化対策では、十分な財源の確保ができない理由

まず、少子化対策というのは、現役世代にもっと子供を産んでもらうことが目標になります。そもそも、こうした個人の選択に対して、国が口を出すということ自体にアレルギーのある人も少なくありません。とはいえ、そうも言っていられないのが現状です。

団塊ジュニア世代が「妊娠が難しい年齢」に達している

実は、女性は、生理さえあれば妊娠できるわけではありません。医学的には、閉経の10年くらい前から、妊娠は極端に難しくなることがわかっています。そして、人間の閉経の時期は寿命が伸びても変わらず、だいたい50代前半です。

つまり、40代前半が、女性が妊娠できる限界ということです。少子化対策がうまくいっていると言われるフランスでさえ、不妊治療への公費投入には「43歳まで」という年齢制限がありますが、それは、それ以上の年齢になると妊娠の確率が下がるからです。

現在の日本人の平均年齢は46歳(国立社会保障・人口問題研究所による推計)です。特に、人口ボリュームの大きい団塊ジュニア世代(1971〜1974年に生まれた世代)が41〜44歳になっています。団塊ジュニア世代が子供を生む可能性が、まさにいま、極端に下がりつつあります。

人口問題の解決というレベルでの少子化対策は、団塊ジュニア世代の妊娠が難しくなった現在、お金をかけても効果は期待できなくなりました。

そもそも抜本的な少子化対策のための財源も捻出できない

外国で実績の出ている少子化対策とは、具体的には(1)生めば生むほど有利になる子供手当の給付(2)子育てをする世帯の各種減税・社会保険料などの免除(3)子供の学費免除(4)保育所の整備と保育所費用の免除(5)仕事と育児を両立しやすい制度整備、といったあたりになります。こうした対策には、莫大なお金が必要です。

すでに高齢者の社会福祉でさえままならないのです。ですから日本はもはや、こうした抜本的な少子化対策のためのお金を捻出できません。また、このお金をなんとかしたとしても、これからますます増えていく高齢者の医療・介護を「支える」というレベルで、子供の数は確保できません。団塊ジュニア世代には、もはや生めないのですから。

こうした意味では、近代における日本の政治の最大の失敗は、団塊ジュニア世代に対して、具体的な少子化対策を打てなかったことにあります。団塊ジュニア世代が子供を生めた2000〜2010年が、最後のチャンスでした。この時期に生まれている子供は、まさに2025年ごろから税金を納めるようになりますから、ギリギリ間に合うはずでした。

ハードランディングを避けるための議論を開始すべき

高齢者の医療・介護の財源がありません。このためには、現役世代の数を増やすということが一番大事だったのですが、もはや間に合いません。では、法人税、所得税、消費税などを増税し、さらに社会保険料を上げていけば良いのでしょうか。

増税をした場合、まず、企業は本社を税金の安い海外に移すようになります(株主がそれを望みます)。仮に、本社が日本にあったとしても、稼いだお金を持っていかれてしまうと投資が減ります。すると企業の業績は悪化し、雇える従業員が減り、結果として税収はむしろ下がってしまいます。

また、増税により現役世代の「手取り(可処分所得)」が減った場合、当然、消費も減ります。すると、景気が悪くなり、企業の業績も悪くなり、法人税、所得税、消費税のすべての税収が減ってしまいます。さらに「手取り」が減っていく社会では、子供も生まれません。そこから将来の税収まで下がってしまいます。

こうした背景から、高齢者の医療・介護の財源が必要だからということで増税をすると、かえって、税収が減ってしまう可能性も高いのです。こうなると、税金以外の財源の確保を考えていかなければなりません。それは、社会福祉以外のところに使われている税金のカットです。

本丸は、公務員の総人件費のカットです。しかし、こうしたことは、数年ではとてもやれません。公務員にも生活があり、日本を支える大事な仕事をしています。日本には公務員が340万人もいますから、ここの「手取り」が減ることによる景気への負のインパクトもあります。これを、2025年までに十分な財源を確保できるくらいまで進められるとは思えません。

すると、どこがカットされていくのでしょう?本来であれば必要なところ、すなわち医療、介護、社会的弱者、子供、子育て世帯といった、社会福祉の根幹のところが、カットされていきます。たとえば既に、要介護1、2では生活支援が使えなくなるという話も出ています。おかしな話ですが、人類は歴史的にも「弱者切り捨て」ということを何度も行っています。

このような予測が外れることを祈りたいです。しかし現実には、むしろこうした予測を前提として、その上で、どうやってお金を使わないで日本の社会福祉を充実させていくのかという議論をはじめないといけません。

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