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SOMPOケア、介護職の待遇改善、最大で80万円アップ

SOMPOケア、介護職の待遇改善、最大で80万円アップ

介護業界の待遇問題は解決するか?

介護業界における待遇改善が急務であることは、多方面で指摘されてきました。増え続ける介護ニーズがあるにも関わらず、待遇がなかなか改善しないのは、介護業界の売上が実質的に国によって管理されているからです。ここには、通常の市場の原理が働かず、介護ニーズが増えても、対価は増えないという構造があります。

そうした背景から、介護ニーズに見合うだけの介護人材の確保が進んでいません。介護業界には、数十万人規模での人手不足があり、介護の品質の低下が懸念され続けています。最近では、介護の品質の低下にとどまらず、そもそも介護が受けられないのではないかという心配まで現実味を帯びてきています。

そうした中、SOMPOケアが、大幅な待遇改善を発表しました。政府による加算にだけ頼らず、自社でも10億円の財源を準備したそうです。その結果、最大で年80万円アップとのことで、介護業界内部でも話題になっています。以下、日本経済新聞の記事(2019年8月23日)より、一部引用します。

SOMPOホールディングス傘下で介護事業を手掛けるSOMPOケア(東京・品川)は介護職員の処遇を改善する。まず10月に介護職リーダーの給与を年間最大で2割以上高い約80万円引き上げる。2022年をめどに看護職並みの水準を目指す。(中略)22年にはさらなる処遇改善を実施。リーダー職の処遇を都内で年収420万~475万円とされる看護師と同等水準まで引き上げる。

介護業界はこの動きに追従できるか?

今回の、SOMPOケアの待遇改善は、とても良いニュースです。同時に、これが、SOMPOケアだけの話にとどまらず、介護業界全体に波及していくかどうかが重要です。本質的に、介護業界の人手不足は、介護業界の外からの人材を引きつけないと改善しないからです。

政府による加算だけでは、SOMPOケアと同等の待遇改善はできません。では、他の介護事業者も、SOMPOケアのように独自の財源を準備できるかというと、これは簡単なことではないでしょう。特に小規模な介護事業者は赤字であることが多く、そうした財源の確保が難しくなりそうです。

SOMPOケアのような介護大手と、中小の介護事業者の間で、待遇格差が広がってしまうと、どうなるでしょう。一時的には、介護大手ばかりが人材確保に成功し、中小の介護事業者は、ますます人材確保が難しくなる可能性があります。

そうなると、これまででさえ過去最高の倒産件数を更新してきた流れが、中小の介護事業者においては、さらに加速しそうです。そうなってしまえば、大手が事業を展開していないエリアでは、介護人材がいないため、介護サービスが受けられないということが現実化してしまいます。

業務効率化を支援できるツールは間に合うか

そうした中小にとって不利な経営環境は、中小の業務効率化を支援するツールが導入されることで、解決する可能性もあります。しかし、そうしたツールの導入にも費用がかかることが普通です。結果として、そうした業務効率化のツールは、返って大手と中小の格差を大きくしてしまうかもしれません。

介護業界が、大手だけによる寡占状態となってしまうことは、望ましいことではありません。しかし、国の財源が不足していく流れが止まらない限り、好きか嫌いかにに関わらず、マクロには、大手による寡占状態が進むと考えた方が良さそうです。

こうした形で介護業界の待遇問題が小さくなっていくということは、介護サービスの空白地帯を広げることにつながり、結果として、介護難民という新たな弱者を生み出してしまいます。人によっては、介護がないと生命の維持さえできないというケースもあるため、この問題は、かなり重たいものになるでしょう。

遠くない将来、介護サービスを受けるために、住み慣れた土地を離れなければならない未来がやってきそうです。それでもなお、介護業界の待遇問題を放置するよりは良いという社会的な判断が示されようとしています。他に待遇改善の打ち手がないのであれば、仕方がないのかもしれません。

※参考文献
・日本経済新聞, 『SOMPO、介護職員の給与引き上げ 10月から』, 2019年8月23日

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