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高齢者(65歳以上)の年金+給与が47万円を超える場合、そうして超えた分の半額が、年金から引かれるという仕組みがあります。この対象となるのは、約36万人の高齢者とのことで、年金の財源としては嬉しいことですが、働く高齢者からすれば、モチベーションを削がれる話ではあります。
この制度は、65歳以上の高齢者だけでなく、60~64歳の人の場合は、年金+給与が28万円を超えた場合の、超えた分の半額となり、より厳しい条件になっています。こちらの対象となるのは約88万人にもなります。合わせると、100万人を超える人が、この制度によって、年金を減らされているという現実があります。
この制度は、働くと損になるという背景を持っていることから、高齢者が働かなくなるという懸念があり、厚労省は、この制度を廃止(または縮小)する方向で検討をしています。しかし、この制度を廃止した場合、100万人以上の人々に対して減額してきた年金を元に戻すことになり、追加で1兆円以上の予算が必要になることが問題視されています。
もちろん、ここで年金の減額をやめることで、高齢者の働く意欲が高まり、結果としてより多くの税収が生まれる可能性もあります。より多くの税収が1兆円以上になるのであれば、これは、優れた投資になり、なんの問題もありません。しかしもし、1兆円かけた結果として、税収がそれ以上にならないのであれば問題となります。
現在の介護業界は、日本の全63業界でも、最悪の待遇であると考えられています。これを是正しようと、2,000億円の財源が当てられることが決まっていますが、それでも、最下位の待遇を脱することはできないと考えられています。
ここで、話題になっている年金制度の改革に必要となる1兆円を、仮に、介護職の待遇改善に使うとします。介護職の人数を約200万人として、年間1兆円をその待遇改善のための財源にするとすれば、1人あたり年間で50万円の改善になります。先の2,000億円と合わせれば、年間60万円の改善です。
年間60万円の改善があれば、介護業界は、ギリギリ、待遇が最下位というところを脱することができる計算になります(介護業界40歳モデル賃金395万円=63位、百貨店業界40歳モデル賃金452万円=62位)。それでも、介護業界で働く人は、200万人では足りず、今後も増えていくことを考えると、この改善幅では不十分ではありますが。
繰り返しになりますが、この1兆円の全てを、介護業界の待遇改善に使えるわけではないでしょう。ただ、そうして待遇改善に流れるお金は、なんらかの消費として利用され、そこからは別の業界の売り上げが生まれ、消費税などで税収にもなります。
このまま、誰も何も言わないと、新たに確保されようとしている1兆円の財源は、働く高齢者が減額されている年金の補正財源として使われるでしょう。介護業界は、しかしここで「その財源があるなら、財源の全てではなくても、介護職の待遇改善にも使ってもらいたい」と声をあげる必要があるのではないでしょうか。
ただ、介護業界で働く少なからぬ人々は「誰かがやらなければならない仕事だから」「利用者に喜んでもらうのが好きだから」「社会的にも大事な仕事だから」といった動機で頑張っていることも多く、それはお金の話ではない、お金の話ならこの業界にいないという感覚を持つことも多いようです。
そう考えると、介護職の待遇改善というのは、介護業界の内部からだけでは、なかなか動きをまとめることが難しそうだということが認識されます。お金で業界を選ぶ訳ではない人々が、業界の待遇を改善してほしいと訴えるのは、ある意味で矛盾もしているからです。
だからこそ、介護業界の中ではなく、むしろ周辺にいる人々も、介護職の待遇改善について声をあげる必要があると思います。介護職の待遇改善だけが問題ではなく、他にも問題があることは確かです。ただ、待遇改善は、そうした問題の中でも大きいものであり、改善がどうしても必要だと考えています。
※参考文献
・TOKYO MX, 『「稼ぐ高齢者」の年金減額見直しへ…完全廃止で「1兆円超」財源必要に』, 2019年6月16日
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