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年金だけでは2,000万円不足するというニュースが話題になっています。このニュースには、色々な問題があって、特に「年金を返せ」といった話になると、背景に誤解がある危険性が高まります。そもそもこの話は、老後30年で公的年金により8,000万円が支払われる前提で計算されており、年金は変わらずに大事な生活の基盤です。
問題は、老後30年で必要になる生活費は、生活のレベルや価値観によってかなり異なるというところです。ただ、モデル世帯として平均を相手にすれば、30年の生活費は合計で1億円くらいになり、公的年金として支払われる8,000万円との差額となる2,000万円くらいが不足する可能性があるということになります。
ただ、高齢者の貯蓄の世帯平均は1,268万円(常陽銀行, 2015年)というデータがあり、さらに、貯蓄額が1,000万円以下の高齢者世帯は57.9%にもなります。貯蓄額を500万円以下としても43.5%がここに含まれるということからも、不足するのが2,000万円と言われても、どうにもならない世帯がほとんどです。
ここで、2,000万円の不足という話も、実は、医療費や介護費などを加味していない、かなり楽観的な計算だという指摘が出てきました。金融庁は、住宅の修繕費や医療費の部分を500万~1,000万円、介護にかかる費用を0~1,000万円、住宅ローンの残高を0~1,000万円と見込んだ場合、3,000万円ほど不足すると計算していたというのです(時事通信, 2019年6月18日)。
損害保険ジャパン日本興亜株式会社による調査では、介護には、平均で787万円かかっているとされます。これは1人の介護にかかっている平均であり、夫婦2人の介護ではありません。また、医療費はこれに含まれておらず、平均は参考にはなっても、意味があるかというと、非常に難しいとしか言えません。
結局、老後が30年あったとして、その間に年金で8,000万円もらえたとしても、足りない人が多くなりそうだということ以上は、意味のある議論はできそうもありません。年金以上に必要になる資金は、健康状態や住宅ローンの有無、親の遺産の有無によっても、かなり変わってくるからです。
老後にいくら必要かという議論は、かなりバラツキの大きい世界を理解するために平均だけで考えていく限り、それほど硬い議論にはなり得ません。ただ、今後、年金として支払われていくのが老後30年で8,000万円として一定のはずもなく、下がっていくことを考えると、長期的には年金だけでは足りない高齢者が大多数になっていきそうです。
ここで、今からどうしても開始しなければならない議論は、いくら不足するのかではなく、お金が不足してしまった高齢者をどう支援していくのかという部分でしょう。もはや、現行の年金制度だけでは足りないというところまでは確定しているのであれば、何か、新たな施策や改革が必要になることについては、議論するまでもないからです。
当たり前の話なのですが、高齢者を一律で弱者とするのではなく、年齢に関係なく、お金のある人からお金をもらって、お金の足りない人に流すという富の再分配を、より正しく進めることが重要になります。そうして、富の再分配を進めたとしても不足する部分をどうするのか、ベーシックインカムを含めた、抜本的な対応策の議論が必要でしょう。
※参考文献
・時事通信, 『金融庁「3000万円必要」=老後資金、報告書と別に試算』, 2019年6月18日
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