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大きな病院には、患者が集まりすぎるという問題があることは、長く日本の社会課題として認識されてきました。一般論として、大きな病院の方が検査装置などの医療機器が充実していますし、同じ場所で複数の専門科に相談できるというメリットもあります。
しかし、そうして大きな病院に集まる患者の中には、そこまで重大な病気ではなく、地元のクリニックで十分に対応できるというケースも多数あります。それにも関わらず、大きな病院に患者が集まってしまうという状態が続いてきたのです。
そうした状態では、本当に重大な病気になっている患者の診療が、患者が集まりすぎることによって遅れてしまうという危機も発生してしまいます。これは明らかな問題であり、ヨーロッパで一般化しているような、かかりつけ医(ホームドクター)制度が求められてきました。
ヨーロッパは、こうした大きな病院を上手に活用するための制度を整えています。専門性の高い医療を受ける前に、総合的に病気を診断することのできる総合診療医(GP/General Practitioner)の診療を受ける形が定着しています。いわゆるかかりつけ医(ホームドクター)制度です。
特にオランダの場合は、国民のほぼ全員が、自分を担当する総合診療医とのコンタクトを持っています。交通事故などの緊急時をのぞいて、こうした総合診療医の診断を受けないで大きな病院にいる専門医にかかると、保険が適用されないこともあります。
ドイツの場合は、国民がはじめに総合診療医を受診する義務はありません。しかし、9割の国民は、実質的な総合診療医とのコンタクトを持っていて、そうした総合診療医からの紹介状がないと、専門医にかかるときに、追加料金がかかるという制度になっています。
こうしたヨーロッパの事例に学び、日本では、ドイツ型に近いかかりつけ医の制度が、少しずつではあっても普及してきています。こうした制度の実現に向けて、日本でも、大きな病院(すなわち専門医が多数いる病院)にかかるとき、紹介状がないと、追加料金がかかるという仕組みが導入されています。
2016年4月からは、日本でも、緊急時をのぞいて、大きな病院(特定機能病院・500床以上の地域医療支援病院)を紹介状なしで受診した場合、5,000円以上の追加料金を支払うことになりました。2018年4月からは、この500床(ベッド)以上という条件が400床以上と、適用範囲が広げられています。
現在、厚生労働省では、現在のところ400床以上になっている条件を、さらに200~300床として、この適用範囲を広げようとしています。こうして、初診から大きな病院を受診しようとする患者を減らし、実質的なかかりつけ医制度への移行を目指しているのです。
こうした流れは、今後も止まることはないでしょう。そうなると、国民である私たちには(1)大きな病院は緊急時以外にはできるだけ行かない(2)自分の暮らしているところにある小さなクリニックを活用する(3)そうした中から長期的に関わるかかりつけ医を見つけていく、ということが求められます。
この3つのポイントを意識していないと、消費税増税や、かかりつけ医制度の適用範囲の拡大によって、知らず知らずのうちに、医療にかかるお金が増えてしまう可能性も高まります。ここに文句を言っても、社会福祉財源のみならず、そもそも医療従事者の数が不足している日本では、無理な注文になります。
そもそも長期的に自分のことを理解してくれているかかりつけ医を持つということは、高齢化の時代において、介護の方針などを考える時にも重要になります。優れた介護を実現するには、そうしたかかりつけ医の存在が必要でもあるからです。
※参考文献
・m3.com, 『「初診料6点増、再診料1点増」、2019年10月改定で厚労省案』, 2019年2月6日
・日本経済新聞, 『紹介ない初診は追加負担、対象病院拡大へ』, 2019年5月15日
・厚生労働省, 『各国のかかりつけ医制度について』, 2007年
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