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年金の実質支給額が下がっていく・・・生涯現役は可能なのか?

年金の実質支給額が下がっていく・・・生涯現役は可能なのか?

年金を支払う期間が長くなる?

ご存知の通り、子供が増えて人口が増えていくことを前提として設計されてきた日本の年金制度(賦課方式)は、制度疲労を起こしています。どう考えても、今後、もらえる年金の額は減っていき、支払う年金の額は上がっていくことは避けられません。

そうした前提にあって、政府は(1)年金をもらい始める時期を遅らせる(2)年金を支払い続ける期間を伸ばす、という2つの方向で、この危機の影響を少しでも小さくしようとしています。この4月にも、年金を支払い続ける期間を長くする法案が通りそうだというニュースが話題になっています。

ここで、年金をもらい始める時期をできるだけ後ろ倒しして、年金を支払い続ける期間も長くした場合、月額としては、将来もらえることになる年金が増えるという部分です。このインセンティブ設計は、政府にとっても高齢者にとっても(多少は)魅力的なものになっています。

もちろん、月額としてもらえる年金が増えても、残りの人生の期間が短くなれば、総額としての年金は、損をする可能性もあります。ただ、将来どうなるかをビクビクしながら過ごすよりも、ギリギリまで労働の対価を得ながら、年金なしで暮らした方が、心身の健康にとってはよいことです。

これは、年金の実質支給額は下がっていくけれど、高齢者の幸福については、元気で仕事が続けられる限りにおいて、有益な制度変更です。もちろん、実質支給額が下がるのは残念ですが、その下げ方としては、ギリギリの調整であり、よく考えられていると思います。

それと同時に生活保護が増える

みんなができるだけ長く年金を支払い、支給開始を後ろ倒ししていけば、年金は破綻することなく、必要な人が受け取れる可能性もあります。受け取れる総額は下がるかもしれませんが、悲惨な老後が少しでも減らせるならば、その選択肢も仕方ないでしょう。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。それは、社会福祉財源という、年金財源よりも一段上で考えると(1)年金を支払っていないため受け取れない人(2)国民年金だけしかもらえずに足りない人、という部分も増えてしまっているので、生活保護が増えるという背景も、ここに加わるのです。

国は、ここも見越しており、生活保護の給付額を減らすようにしています。そもそも日本は生活保護が受けにくい国ですし、こうした給付額の減額については大きな反発も出ていますが、この流れが逆流することはなさそうです。

とにかく、お金が足りないのです。しかも増税も止まりません。その中で、年金のあり方は、残念ではあっても、先に取り上げた(1)年金をもらい始める時期を遅らせる(2)年金を支払い続ける期間を伸ばす、という方法以外に思いつきません。

年金についての報道があるたびに、世間からは非難と同時に、あきらめのような感情も発信されています。今後は、働ける限り働いて、どうにもならなくなったら年金をもらうというところまで行くでしょう。そこまでいっても、財源が足りるかどうか不安なのです。

年金をもらい始める時期を遅らせるために

少なからぬ人が、自分がもらえる年金について不安に思っています。もらえないということはないでしょうが、健康で文化的な生活を維持できるほどに高額な年金をもらえるとは思っていないでしょう。この不足分を補うためにも、多くの人が「生涯現役」を覚悟していると考えられます。

実際、この「生涯現役」というのは、ところどころで聞く言葉になってきました。しかし同時に、これだけの好景気と人手不足にも関わらず、45歳での退職勧告(早期退職の実質的な強要)が発生しているという矛盾がクローズアップされてきています。

人工知能によって、多くの雇用が奪われることがだんだんと現実になってもきているいま、私たちの「生涯現役」という覚悟は、本当に実現可能なのでしょうか。「働き方改革」も、本来の意味を離れ、現役世代の実質賃金を押し下げる要因になってしまっています。

こうして不安が大きくなれば、人々の消費行動にも制限がかかります。将来が不安な社会では、貯蓄をしっかりとしておかないと、怖いからです。そこでどうしても、ベーシックインカムについての議論を開始することが急務なのです。

とはいえ、ベーシックインカムには財源の問題もあり、実現した場合、年金が足りなくなる人も急増する可能性が高まります。そうなると結局は「生涯現役」を少しでも実現するための雇用の創造が必要になります。それに失敗すれば、日本に明るい未来の可能性はなくなってしまいます。

※参考文献
・共同通信, 『厚生年金、加入期間70歳以上も』, 2019年4月19日

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