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介護職の待遇、もう限界。これが国の選択なら、仕方がない。

介護職の待遇、もう限界。これが国の選択なら、仕方がない。

介護職の待遇は実質的に国が決めている

日本の介護サービスは、予算付けられた公費(+1割の自己負担)で成り立っています。同時に、日本の介護サービスの展開に必要な人員数も、国が計算しています。予算が固定しており、人員数が決まっているなら、人件費も(ほとんど)自動的に決まります。

もちろん、介護事業者が、介護保険でカバーされない保険外のサービスで成功していたり、地代家賃がかからない自社の土地を活用していたりすれば、ここで計算される人件費を超えて、人件費を捻出することが可能です。しかし、そうした事例は多くはありません。

そのようにして、介護業界の待遇は、日本の全63業界中でも最悪と言われるまでになりました。医療であれば、医師会があって、なんとか医療業界の待遇を維持することに団体として頑張ってきました。しかし介護業界には、そうした圧力団体が実質的に存在していません。

そうして、待遇の悪い介護業界は人手不足となり、その待遇はほとんど改善されないままに、外国人労働者の受け入れということになっています。ただし、こうして外国人労働者を受け入れても、介護業界の人手不足を補うには、まったく足りないということは、認識しておく必要があります。

介護業界を離れていく人が考えること

介護を必要とする高齢者が急増しているという背景を受けて、介護業界で求められる労働者数もうなぎのぼりで増えてきたという歴史があります。こうして増やされる労働者は、当たり前ですが、もともとは他の業界で働いていた人がほとんどです。

他の業界と比較して、悪い待遇であるにも関わらず、志をもって介護業界に入ってくる人が多数いたのです。ただ、それも限界に来ています。介護業界を離れていく人も増えているからです。以下、マイナビニュースの記事(2018年12月7日)より、一部引用します。

離職した介護職のうち、31%が入社1年未満、61%が3年未満に離職していることが判明。また離職した介護職の55%(無職含む)が業界外に流出しており、条件に寄らず介護職への明確な復職意向がある人は6%にとどまっているものの、条件次第で復職したい人は52%いることがわかった。

離職理由を聞くと、「給与の低さ」が21.3%で最多、次いで「キャリアの見通しのなさ」が17.3%と続いた。離職までの在籍期間別にみると、入社後1年を過ぎると、給与の低さやキャリアを不安視する人が多くなり、特にキャリアの見通しのなさにより離職する人が急増していた。(後略)

財源の確保をしっかりと行ってもらいたい

いま、勤続10年をクリアした介護福祉士の待遇を月額8万円上昇させるというニュースが話題になっています。一見すれば、これは大きな待遇改善のように思われます。しかし、このために準備されている財源は年1,000億円程度にすぎません。

1,000億円とはいえ、介護業界で働く人は約200万人いるので、1人あたり年5万円程度の待遇改善にすぎません。こうして平均でならすと、この待遇改善は、民間の平均や公務員の待遇改善の改善幅と大差ありません。最悪の待遇環境にある介護業界で、世間並みの賃上げがあったというだけの話なのです。

介護は、国民全員に関わってくる重大な問題です。そうした介護の負担を肩代わりしてくれる介護職の待遇が最悪のままだと、いざというときに、介護の負担を分散させてくれる介護職が周囲にいないという状況になるでしょう。それが、本当に現実のものになってきています。

こうしたことの裏では、もともと7,000億円と説明されてきたオリンピックの予算が3兆円にまで膨れ上がっています。このままでは、私たちを待っているのは、盛大なオリンピックを見ながら、介護離職を考えるような未来です。介護業界には、それが国の選択であれば仕方がないといったあきらめムードさえ生まれています。

自分では受けられない介護を提供する人々のことを考えるべき

老人ホームに入所するには、かなりのお金を準備しないとなりません。安価で質の高いサービスを提供する特別養護老人ホームは、長蛇の入居待ちで、一般には入所できません。それに代わる民間の老人ホームは、月額30万円程度は覚悟する必要があるため、これも一般にはかなり厳しい条件になっています。

そうした老人ホームで働く介護職の手取りは、20万円に満たないことがほとんどです。そこで働く介護職の気持ちは、どのようなものでしょう。決して、自分の手取りでは入所することのできない贅沢な老人ホームで、富裕層を相手に、ひどい待遇を我慢して働いているわけですから。

こうした状況でも、なんとか介護業界が仕事をしているのは、あくまでも善意からであることを忘れてはなりません。待遇を我慢してでも、目の前で困っている高齢者を助けたいという人材がいればこそ、ギリギリの状態で成立しています。ただ、これはもう限界であることは、広く認識されるべきです。

もう限界という根拠は、2025年問題がもうすぐそこまで来ているからです。2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護を必要とする高齢者が激増します。これに対応するだけの介護人材は、38万人という規模で足りません。この結果は、多くの国民が「悲惨な介護」として経験することになります。

具体的な対応としての財源確保を急ぐ必要がある

もちろん、介護現場においても、生産性の向上を進めることで、少ない人数でも、より多くの高齢者の対応ができるようにすべきです。そうした動きも、少しずつではあっても、生まれてきています。ただ、それだけでは、どうしても対応しきれないほど、高齢者の数は増え続けているのです。

生産性の向上を進めながらも、介護業界に流れる税金の総量を増やさないとなりません。同時に、公費(税金)ではない、別の財源確保(混合介護など)についても、進めないと、本当に間に合わなくなります。

自分や自分の家族に介護が必要になれば、介護業界の存在に感謝することになります。ただ、そうして感謝する先が、もはや限界という状態にあり、今後は、介護に悩む人々の支援ができないという状況になります。

削れるところは、まだまだあります。たとえば、公共交通の利用料が割安となる敬老パス事業は、名古屋市は年間140億円、横浜市では約100億円という事業規模になっています。他にも、介護業界限定の税制優遇を考えるなど、財源に関する打ち手はあります。ここを考えてもらわないと、もう本当に限界です。

※参考文献
・マイナビニュース, 『介護職の離職理由、2位「キャリアの見通しのなさ」 – 1位は?』, 2018年12月7日

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