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介護職の待遇改善に2,000億円・・・まったく足りないけれど、2つの効果も期待される

介護職の待遇改善に2,000億円・・・まったく足りないけれど、2つの効果が期待される

介護職の待遇改善に2,000億円

介護職の待遇は、全63業界でもダントツの最下位という状況が続いています。もはや小手先の待遇改善ではどうにもならず、この待遇の悪さによって、介護業界は、慢性的な人手不足に陥っています。特に都市部における人手不足は深刻で、有効求人倍率も5倍を超えるところが出てきています。

そんな中、来年10月からの消費税増税によって、介護職の待遇改善が進められるというニュースは、かなりの注目を集めています。議論の中心は、待遇改善は嬉しいけれど、その改善幅は全く足りないというものです。

ただ、この議論のはじまりに1,000億円とされていた財源は、いまは2,000億円と倍になっています。1,000億円では足りないという多くの意見が、この背景になっているのは、とても心強いと感じます。同時に、やはり2,000億円でも足りないわけで、まだまだ、介護職の待遇は社会問題として残されます。

年間で2,000億円となる待遇改善のための財源を、介護業界で働く約200万人で割ると、1人あたりの待遇改善は年間10万円にすぎません。年間10万円の待遇改善があっても、それ以上に、支払う消費税が上がってしまえば、かえってマイナスなのです。これには、虚しさを通り越して、怒りさえ湧いてきます。

2,000億円の配分によって大きく見せる

今回の国の施策は、こうした批判を認識した上で、2,000億円の配分によって特徴を出そうとしています。各社の報道では、勤続年数10年以上の介護福祉士に対して、月額8万円の賃上げが想定されています。介護福祉士であることと、勤続年数10年以上であることを条件にして、1人あたりの改善幅を大きくするわけです。

この施策には、問題もあります。介護福祉士に限定することは良いとしても、特定の事業所で10年以上の勤続が求められるという部分が、かなり難しいからです。実質的に、職業選択の自由にブレーキがかけられることになり、介護業界はどこまでいじめられるのかと、嘆きたくもなります。

こうした厳しい条件に合致するのは、せいぜい20万人程度と考えられています。すると、残りの180万人の介護職の待遇は改善されないまま、消費税だけが上がることになります。これは実質的に、介護業界の待遇がさらに悪くなるということを意味するでしょう。

ただ、これを別の角度からみると、面白い効果もあります。まず、介護福祉士を目指す人が増えるということは、よいことでしょう。そしてもう一つ、転職が減ることで、人材紹介業の売り上げも減るという可能性があります。

介護業界における人材紹介業の功罪

人材紹介業には、そもそも流動性が低すぎる日本において転職の機会を増やし、産業を活性化するという役割があります。これによって、ダメな経営者は淘汰されるので、長期的には、日本の競争力の強化に貢献する可能性もあります。

同時に、人材紹介業は、企業から紹介料をもらうというビジネスであり、企業にとってはコスト要因であり続けています。介護業界のように、そもそも、全体として儲からない構造をもった業界から、貴重なお金が、介護業界の外に位置する人材紹介に流れてしまうことは、大きな問題なのです。

このお金が、介護業界の外に流れていかずに、内部に止まれば、それを待遇改善の財源に回すことが可能です。あくまでも可能性にすぎませんが、今回の勤続10年以上という条件によって転職にブレーキがかかることは、介護業界の待遇改善に対して良い効果をもたらすかもしれないのです。

これはまだ、エビデンスのある話ではないですし、問題も多くあります。とはいえ、とにかくまずは、2,000億円の財源確保は喜ばしいニュースであり、そこには、間接的に2つの効果が期待されるという部分については、これからもウォッチしていく必要があるでしょう。

※参考文献
・朝日新聞, 『介護職員の賃上げに2千億円 厚労省、介護報酬を改定へ』, 2018年11月2日

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