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在職老齢年金とは、現役なみに収入のある高齢者に対する年金の支給を、一部または全額停止するという制度です。これにより、年間1兆円近い年金財源が節約できているのですが、同時に、高齢者の立場からすれば、働く意欲を削ぐ制度になっています。
日本の労働力不足は深刻で、すでに高齢者の就業率は主要先進国の中でも最高というレベルにあります。介護業界も、元気な高齢者が介護職として働いてくれることを期待しています。人材不足もありますが、要介護者と年齢が近いほうが、会話も弾むというケースもあるからです。
そうした中で、在職老齢年金の制度は、高齢者の就労に対するブレーキになっていることに注目が集まっているのです。そしてこの、在職老齢年金の制度を廃止しようという議論がはじまっています。以下、SankeiBizの記事(2018年6月18日)より、一部引用します。
現役並みの所得がある高齢者の年金支給を減額する在職老齢年金制度について、政府が制度の廃止も視野に見直しを行うことが17日、分かった。2020年の通常国会で厚生年金保険法など関連法の改正を目指す。(中略)
現役並みの収入がある高齢者には年金支給を一定程度我慢してもらうという制度だが、働けば働くほど年金が目減りする制度ともいえ、政府・与党内からも見直しを求める声が上がっていた。
在職老齢年金制度について、政府が廃止を含め見直しを検討するのは、同制度により年金の支出は年1兆円程度抑制できている一方、高齢者の労働意欲をそぐことによる経済損失の方が大きいと考えられているためだ。(後略)
問題は、この在職老齢年金の廃止に、これまで抑制できてきた1兆円以上の価値があるかです。ここで考えなければならないのは、高齢者が仕事をすることによる直接的な税収と、間接的な費用の抑制です。
まず、高齢者が労働をして、所得税を納めてくれる分でどれだけの金額になるのかです。平均で月額20万円程度の仕事につくとすれば、所得税率は10%ですから、年間で高齢者1人あたり24万円になります。単純計算で、400万人以上の高齢者(高齢者の約12%)が新たに仕事につかないと、1兆円という規模には届きません。
しかし、仕事を通して役割を持ち、社会につながっていると、介護が必要になるリスクが減ることもわかっています。新たに仕事をはじめる高齢者の介護リスクを下げることになれば、別のところでの費用の抑制につながります。この部分の計算は非常に難しいのですが、金額感としては数千億〜数兆円規模の効果が期待できる可能性があります。
とはいえ結局のところ、これはやってみないとわかりません。そうして、財務リスクを抱えてしまうよりも、むしろ年金を無くしてしまって、ベーシックインカムへの移行を検討すべきだと思うのです。ベーシックインカムとは、日本に暮らす人であれば、年齢や属性によらず、毎月一定額のお金が支給されるという制度です。
働いていても、働いていなくても、とにかく誰にも同額のお金が毎月支払われる状態がベーシックインカムです。そのときの金額は、イメージでは1人あたり7万円程度で、子供2人の4人家族であれば、7×4=28万円が入金されるわけです。そのお金では足りなかったり、ただ働きたいなら働けばいいという仕組みになります。
これは、貧困を減らすだけでなく、失業不安も軽減します。将来不安からの貯蓄が減り、消費が増えることで、経済も活性化します。将来、人工知能の本格導入によって失業率が跳ね上がるときまでには、こうした制度が必要になるでしょう。在職老齢年金の議論に止まらず、このベーシックインカムまで話を広げてもらいたいところです。
※参考文献
・SankeiBiz, 『在職老齢年金 政府、廃止視野に見直し 高齢者の労働意欲そぎ経済損失』, 2018年6月18日
・日本年金機構, 『在職老齢年金の支給停止の仕組み』
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