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様々な統計は、この世界で、貧富の格差が広がっていることを示してきました。日本からも中流層が消えたと言われており、日本の場合は、自分自身が貧困層に属してしまっていることに気づかないということに問題があるともされています。
今後、こうした格差は、縮まるどころか、さらに広がっていくことも指摘されています。特に、人工知能に代表されるICTが、人間よりも高い生産性を、人間よりもずっと安いコストで実現するという場面は増えてきています。日本でも、大手金融機関や郵便局といった、過去には安泰とされてきた企業での大規模リストラがニュースになっています。
そうした時代背景を受けて、とにかく、雇用されていても失業していても、子供でも高齢者でも、等しく一定額のお金をもらい続けることができる(イメージとしては1人月額7〜12万円程度)というベーシックインカム制度に注目が集まっています。
この制度は、マーク・ザッカーバーグ、リチャード・ブランソン、イーロン・マスクといった著名な経営者が指示していることも知られています。経営者の視点からは、このまま各種技術が発達していけば、従業員を雇う意味が薄れることが明らかだからでしょう。
高齢者という視点では、すでに日本でも生活費が足りないという高齢者世帯は57.9%になります。だからといって生活保護を受けようとしても、日本ではそれがなかなか難しいのが実情です。ベーシックインカム制度は、日本でも、大きな希望なのです。
このベーシックインカム制度は、現在、世界中で試験運用されています。特にインドでは、試験運用のレベルではなく、大規模な導入が計画されていることもニュースになりました。しかし、この流れの中で、フィンランドがベーシックインカム制度の試験運用を停止するという話が入ってきました。以下、BBCの記事(2018年4月24日)より、一部引用します。
フィンランド政府はこのほど、国民に最低限の収入を保障する「ベーシック・インカム」制度の試験運用を、終了期限の今年末から延長しないと決めた。2017年1月に始められたフィンランドの取り組みには、国際的な関心が集まっていた。(中略)
大きな影響力を持つ経済協力開発機構(OECD)の経済開発検討委員会(EDRC)は今年2月、英国が導入したような、複数の福祉給付を一本化する「ユニバーサル・クレジット」制度の方が、ベーシック・インカムよりも有効だとする調査報告書を発表した。(中略)
OECDは一方で、ユニバーサル・クレジット制度が貧困率を9.7%に引き下げ、福祉給付制度の複雑さを低減できるとした。(中略)フィンランド財務省のトゥーリア・ハコラ=ウーシタロ氏は、費用対効果が高く、人々に働く意欲を持たせる一方で所得格差を悪化させない制度設計が課題になると語った。(後略)
詳しいところはわかりませんが、ベーシックインカム制度における最大の課題は原資(もとになる資金)です。BBCの記事によれば、ベーシックインカム制度を維持するには、所得税を30%程度引き上げる必要があるとのことです。それでもなお、ベーシックインカム制度を導入するほうが大事だと思うのですが、フィンランドはこれとは異なる結論に至ったようです。
フィンランドは、複数の福祉を一本化するというユニバーサル・クレジット制度に移行していく決断をしたようです。もちろん、これも今後は変わっていく可能性もありますが、いったんは、フィンランドでは、ベーシックインカム制度は失敗に終わったということでしょう。
まだ、大規模なベーシックインカム制度の実験などの計画もない日本ですが、こうした他国の事例は研究されてきています。フィンランドでの失敗を受けて、日本でベーシックインカム制度が導入される可能性は大幅に減ったと考えられます。では、日本でユニバーサル・クレジット制度は機能するでしょうか。
まず日本の社会福祉の特徴としては、そもそも低所得者層が、社会福祉の充実に反対するという皮肉な環境にあります。この理由は簡単で、日本の社会福祉は、本当の弱者を救わないと考えられているからです。社会福祉の名の下に税金を取られても、それが自分たちのところには帰ってこないと信じられてしまっているのです。
すでに日本は、マイナンバーに数千億円を投入していますが、それが社会的弱者のためになっているとは思えません。それだけのお金があるなら、介護職の待遇改善に使ってもらいたいところですが、そうした声はなかなか届かないというのが現状です。
この状態で、ユニバーサル・クレジット制度に移行といった話になれば、膨大なシステム開発費用がかかるばかりで、結局、社会的弱者は救われないということにもなりそうです。とにかく日本の社会福祉は複雑すぎるので、管理コストがかかりすぎています。だからこそのベーシックインカム制度だったのですが・・・残念です。
※参考文献
・BBC, 『フィンランド、ベーシック・インカム試験運用を延長しないと決定』, 2018年4月24日
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