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2041年までの23年で、介護に対する公費支出が3倍になる?

2041年までの23年で、介護に対する公費支出が3倍になる?

現在の公費支出は約10兆円

現在、介護に対しては、年間で約10兆円の公費が使われています。この内訳としては、介護保険料が半分、残りの半分は税金です。これが、2041年には30兆円を突破するという予測が、NIRA総合研究開発機構によって提出されました。現在の約3倍という計算です。

これは単純に、介護保険料を3倍にして、税金を3倍にすればよいという話ではありません。現役世代は減って行き、高齢者は増えるわけですから、収入のある現役世代の介護保険料は3倍以上にしつつ、税金もまた収入のある現役世代により多く負担してもらわなければなりません。

恐ろしいのは、2041年には、団塊ジュニア世代が現役を(ほぼ)引退していることです。団塊ジュニア世代は、人口ボリュームが大きいので、団塊ジュニア世代が現役世代でいる間は、高齢者を支える側として(なんとか)機能するかもしれません。しかし、団塊ジュニア世代に介護が必要になったとき、その財源は決定的に不足するのです。

いつ、なにを諦めるのかをはっきりさせないといけない

実質的に、現状を維持することは不可能に近いことです。そうなると、2041年までの23年間について、今後は、いつ、なにを諦めるのかをはっきりさせないとなりません。今と同じ社会福祉は維持できないことが明白だからです。誰を助けて、誰を助けないのかを議論しなければならないのです。

介護業界でよく語られるのが「あと数年したら、道端で高齢者がゴロゴロ亡くなっている社会がくる」という将来です。もしかしたら、そうした話を他人事のように感じられる読者もいるかもしれません。しかし、本当にそうしたことになった場合、目にすることになる悲惨な光景は、私たち自身の未来でもあります。

そうした将来が、少しでも実現されないように、国の無駄遣いを減らして社会福祉のための財源確保をしながらも、同時に、どの社会福祉を打ち切りにするのかを議論しなければならないでしょう。社会福祉の打ち切りは、誰も口にしたくないことです。しかし、死体の転がる社会になれば、そこも無慈悲に進んでしまうと思われます。

そうした社会福祉の打ち切りにおいて狙い撃ちにされるのは、生命の危機に直結しない福祉でしょう。具体的には、教育予算がもっとも議論の対象になりやすいと考えられます。残念な話ですが、人が死んでいく状況において、文学部に予算が振り分けられることはなさそうです。

2041年までの2つの大きな社会不安

ここまでの議論は、実は、まだ楽観的な2つの危ない前提の上に立っている、楽観的な話です。しかし現実には、その2つの前提は、むしろ、日本の未来に大きな悪影響をもたらしてしまう2つの変化として、顕在化しつつあります。

この2つの変化とは、人工知能の実用化による失業率の上昇と、子供たちの日本からの脱出です。これらが同時に起こりつつあり、この流れが止まらない限り、日本の社会福祉が崩壊するまでの時間が短くなってしまいます。本稿の最後に、この2つの変化について、もう少しだけ考えてみます。

変化1. 人工知能の実用化にともなう失業率の上昇

広い意味での人工知能は、徐々に、浸透しつつあります。大手金融が、人工知能の実用化にともなう、巨大なリストラ計画を明らかにしたのは、記憶に新しいでしょう。また、もはや、一部の新聞記事は、人工知能が書き始めています。そして近い将来、自動運転が実用化されれば、タクシー、トラック、バスなどの運転手の仕事は極端に減ることになるでしょう。人工知能は、究極的には、働かなくても食べていける社会につながっているかもしれません。しかし、そうした社会が出現するまでは、数十年単位の移行期間が必要と言われます。2041年までの23年間は、おそらく、失業率が上昇していくばかりの期間になりそうです。

変化2. 特に生産性の高い子供たちから日本を出ていく

生産性の高い人材は、日本の税金の多くを負担します。その人材から直接受け取る所得税を増やすという意味もありますが、そうした人材には、経営者として多くの雇用を産んでもらいながら、法人税でも多くの税金を支払ってもらわなければなりません。ただ、逆にそうした人材からすれば、高すぎる税金はアンフェアに感じられますし、国外のより税金の安い国で働きたいという気持ちにもなるでしょう。これはもはや、将来の話ではなくなってきています。国内の難関校とされる高校から、日本の大学に行かず、直接海外の大学に留学する生徒が増えてきているのです。彼ら・彼女らは、当然、日本に税金を払う企業に、新卒として就職することも(ほとんど)ないでしょう。

※参考文献
・NIRA総合研究開発機構, 『社会保障に係る費用の将来推計の方法及び手順について』, 2018年3月20日
・西日本新聞, 『AIが新聞記事を書いてみた 執筆1秒、でも設定は人間』, 2017年1月10日

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