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介護報酬の6年ぶり引き上げは、採用コストに消える・・・

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介護報酬の引き上げは嬉しい話ではあるが・・・

介護報酬の引き上げ!ありがとう厚生労働省!』でも言及した通り、厚労省の頑張りによって、介護報酬の引き上げが決まりました。まだ正式ではありませんが、政府は、介護報酬の0.54%の引き上げで最終調整に入っています。

過去に KAIGO LAB では何度も取り上げてきたとおり、介護職の待遇は、なんとしても改善されないとなりません。2025年には38万人が不足すると言われる介護職を、数として確保するためにも、ここは避けられません。

そのためにも、今回のような介護報酬の改善が必要になります。しかし、なんとも難しいところなのですが、0.54%の引き上げでは、まったく足りないのも明白なのです。おそらくは、この引き上げがあっても、介護事業者の倒産件数は減るどころか増えてしまう可能性もあります。

上昇を続ける採用コストの問題が忘れられていないか?

人口減少社会となった日本において、もっとも深刻な問題となるのが、労働者になれる人口の減少です。労働者の数が減っているにも関わらず、景気が良くなっているため、人材の取り合い(war for talent)も激化しつつあります。人材が足りず、なんとか採用をしようとしているのは、介護業界だけではないのです。

特に、業界全体の労働者の数を増やさないとならない介護業界における採用は、他の業界で働く人を、業界を超えて転職させないとならなりません。全63業界の中でもダントツ最下位の待遇である介護業界にとって、それがいかに困難なことであるかは、想像を絶します。

あくまでも新卒に関するデータになりますが、日本全体で採用コストが上がっていることを示したもの(サンプル数2,572社)があります。以下、日顕新聞の記事(2017年6月1日)より、一部引用します。

企業が1人の新卒者を採用する際の平均費用が上昇している。就職情報サイトのマイナビ(東京・千代田)によると、2017年春に卒業した学生の採用費は前年に比べて2千円増の46万1千円だった。2年連続で増加した。(中略)

採用費は新卒向けの広告費や入社案内の作成費、セミナー運営費などの合計。1人当たりの平均費用は非上場企業が1万1千円増の46万7千円だった。一方、上場企業は5万5千円減の42万3千円。業種別では製造業が2万7千円増の51万2千円、非製造業は1万3千円減の43万2千円だった。(後略)

上場していて有名な企業のほうが、採用コストが低くなって有利であることがわかります。また、必要となる設備投資のために、相対的に人件費が安くなりがちな製造業で、採用コストが大きくなっています。こうした環境で、有名ではない介護業界の会社が、低い人件費での採用を試みると、どうなるでしょう。

引き上げられた介護報酬が流れるのは広告業界と不動産業界?

こうして採用コストが上がっているので、介護業界は、今回の介護報酬の引き上げがあったとしても、利益は増えそうもありません。採用コストの内訳について、以下、日顕新聞の記事(2017年1月16日)より、一部引用します(改行位置のみ、KAIGO LAB にて修正)。

複数の就職情報会社の調査を総合すると、企業が新卒1人にかける採用コストは数十万~200万円とみられる。就職情報サイトなどに掲載する広告費が4割、セミナー運営費などが3割と大きな割合を占める。

内定を出した後も懇親会など入社までつなぎ留める費用が発生する。間接コストも増えている。社員をリクルーターに従事させると本来業務にしわ寄せがくる。残業や休日出勤が増え、手当など人件費が膨らむ。(後略)

目の前に介護の仕事があるにも関わらず、採用のためのセミナー運営や面接などに駆り出されている介護職の姿が目に浮かびます。しかし、採用にかかるお金は、介護職の給与としてではなく、広告費やセミナー会場費などに消えてしまっているわけです。

引き上げられた介護報酬は、こうして、広告業界や不動産業界に流れてしまいます。すると、広告業界や不動産業界の人件費は上がるのですが、当の介護業界の人件費はそれほど上がらないという、なんとも悲しい話になりそうなのです。

※参考文献
・読売新聞, 『介護報酬0・54%引き上げへ…6年ぶりプラス』, 2017年12月15日
・日経新聞, 『上昇続く企業の採用費、17年春採用は46万円』, 2017年6月1日
・日経新聞, 『売り手市場続き 膨らむ採用費用』, 2017年1月16日

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