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介護保険法の改正(改正介護保険関連法)が、2017年5月26日に、参院本会議の審議を通過しました。これにより、これまで、収入に応じて1〜2割の間で定められてきた自己負担の割合が、3割まで、拡大されることになります。以下、毎日新聞の記事(2017年4月18日)より、一部引用します。
所得の高い高齢者が介護サービスを利用する際の自己負担割合を3割に引き上げる介護保険関連法改正案は18日の衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決された。参院での審議を経て、5月中に成立する見通し。(中略)
介護サービスの自己負担は原則1割だが、2015年8月から一定以上の所得がある人は2割とした。3割負担は来年8月から導入する。基準は後に政令で決めるが、単身者で年収340万円(年金収入のみでは344万円)以上、夫婦世帯では463万円以上を想定している。利用者の3%に当たる約12万人が対象になる。
これを、所得の高い高齢者だけの話だと考えると間違います。国の狙いは、枯渇しつつある社会保険の財源を、国民から徴収することです。今回の法改正によって、こうした財源の問題が消えてなくなるなら、確かにこれは、所得の高い高齢者だけの話にはなります。しかし現実には、これでは財源は足りません。
とはいえ、国を敵のように考えるのは間違いです。主権が国民にある国の場合、国とは、私たち一人一人の総体だからです。問いたいのは、足りない財源の確保として、こうしてターゲットにされている「年収340万円以上の高齢者」というのは、本当に、ターゲットにされるべき人々なのか、ということです。
私たちは、全体として、消費税増税には厳しい反対をします。野党も、消費税増税には、大反対をするのが常です。しかし、今回の自己負担の3割化や、毎月徴収される介護保険料の増額には反対しません。これは、どうしてなのでしょう。結果として、こうして徴収されるお金は税金と変わらないのに、です。
たとえば、40歳以上の人であれば毎月徴収されている介護保険料は、現在の平均5,500円程度のものが、2025年には8,200円程度まで上がることは、すでに示されている未来です(厚生労働省, 『介護給付と保険料の推移』)。介護保険料は3年毎に見直されるのですが、この場合の見直しとは、値上げです。
消費税の場合は、国民全員が、ターゲットになっている点が、介護保険料などとは違います。全員が一律でターゲットになっている場合、国民は団結して、政権に反対します。みんなの利害が(表面的には)一致しているからです。
これに対して、今回の、自己負担3割というのは、12万人の人々がターゲットです。12万人という数字が、マイノリティーである点が重要です。マジョリティーにとっては、影響のないことであり、マイノリティーがより多くのお金を支払うだけです。民主主義社会では、こうしたマイノリティーは、不利な要求を飲まざるを得ません。
マジョリティーにとって、自分には関係のない話ですから「ふーん」で終わりです。だから、事実上の増税なのに、反対が起こらないのです。次に起こるのは、自己負担3割が適用される収入レベルが下げられるという変更です。そのときもマイノリティーだけが不利益をこうむるのですが、マジョリティーには関係ないので、必ず通過します。
消費税とは異なり、上手にマイノリティーをターゲットにしながら変更をしていけば、どうなるでしょう。いずれは、すべての国民から2割、3割、4割と徴収していくことが可能になります。この背景にあるのは、交渉の常套手段としての、交渉相手の分断です。
「自己負担3割でも、自分には関係ないから、いいや」というのは、恐ろしいことなのです。このように、他者の不利益に関心を持たない人が多い限り、国はやりたい放題できてしまうからです。実質的な増税のターゲットを細かく分断していけば、消費税とは異なり、確実に増税を実現できるのです。
今回の自己負担の割合設定でも、年収が基準となっています。しかし本来は、貯金や不動産を含めた資産が基準になるべきでしょう。自己負担3割となる、年金からの年収344万円という人は、本当に富裕層なのでしょうか。他の人よりも少し多めの年金をもらえていても、貯金がゼロであれば、苦しいのではないでしょうか。
貯金の総額を不問として、一律、344万円以上の年金をもらっている人は、3割の自己負担になるのです。それで、本当に良いのでしょうか。
こうして今回、3割の自己負担を課せられることが決まった、344万円以上の年金をもらっている人々のことを考えてください。こうした人々は、今後、これが280万円以上ということになっても、それに賛成こそすれ、反対はしないでしょう。そうしていつか、みんなが3割という時代に突入することになるわけです。
※参考文献
・毎日新聞, 『改正案が衆院通過 3割負担、今国会で成立へ』, 2017年4月18日
・厚生労働省, 『介護給付と保険料の推移』
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