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日本の社会福祉のための予算は枯渇しつつあります。当然、介護に使えるお金も厳しくなってきています。過去には一律で1割であった介護サービスを利用するときの自己負担部分も(いまのところは)高所得者限定ですが、3割という時代になります。以下、産経ニュースの記事(2017年1月27日)より、一部引用します。
自民、公明両党は27日のそれぞれの厚生労働部会で、高所得者が介護サービスを利用する際の自己負担を現在の2割から3割に引き上げることなどを盛り込んだ介護保険関連法改正案を了承した。政府は2月上旬にも閣議決定し、今国会に提出する。
3割負担の導入は来年8月を予定。厚労省の推計では利用者全体の3%に当たる約12万人が該当する。
当然ですが、はじめはこうして3%(12万人)の高所得者に対する措置であったとしても、将来的には、ここが拡大されていくことは目に見えています。それを前提として、大きな流れが、どの方向に向かっているのかについて、きちんと考える必要があるでしょう。
こうした話があると「高所得者の話なのだから、気にしなくてもいい」という意見を聞くことがあります。しかし、これは交渉術の問題であり、いずれは、より多くの人が3割負担になっていきます。もしかしたら3割では止まらずに、より高い割合の自己負担が求められる時代にもなりかねません。
交渉術の基本は、交渉相手の「分断」にあります。たとえば、こうして「高所得者なのだから、いいだろう」という話が通ってしまうと、高所得者はどう思うでしょう。累進課税などで、これまでも多くの税金を負担してきた高所得者は「いい加減にしてほしい」と感じるはずです。
高所得者の多くは、経済的にも政治的にも、国のリーダーに近いところにあります。そうした人脈を通して「不公平だ」という不満を、国のリーダーたちにぶつけます。すると、いずれは、高所得者ではない人の負担も、上げられていくことになります。そのとき、高所得者は、それを当然のことと考えます。
このようなことが繰り返されると、高所得者と、そうでない人々は「分断」されてしまいます。このような「分断」があると、国民にとって不利な話も、どんどん国会を通過してしまいます。本来であれば「他に、財源確保のための無駄があるはず」という方向で起こるべき議論が、無視されてしまうのです。
国による無駄遣いを監視するのが、社会福祉の財源について考えるときの、本来の道です。それは、はがすべき既得権を考え、実行することになりますから、容易なことではありません。しかし、既得権を守る代わりに、社会的弱者が犠牲になるという図式は、そもそも国家の理想とは真逆のものです。
もちろん、格差の是正のために、高所得者からの税金を増やすことも必要かもしれません。同時に、所得が多い人だけでなく、資産が多い人からの税金も増やすべきでしょう。NASAが出資した調査によれば、文明が崩壊するのは、資源の浪費と貧富の二極化です(The Guardian, 2014)。ですから、行きすぎた二極化を止めるのは大事なことです。
こうした、財源の確保をすると同時に、無駄な支出を抑制することについても考えなければならないでしょう。すでに、日本から中流層という人々は消えており、大多数が下層化しているという現実があります。そこに目を向けることなく、社会的な嫉妬を煽るのは危険です。
本当は、高所得者を引き摺り下ろすのではなくて、下層化していく社会そのものを改善し、全体の所得を高めていくことが大事なのです。そのためには、国による無駄遣いを減らし、教育と社会福祉に対して、思い切って財源を振り向ける必要があります。
※参考文献
・産経ニュース, 『与党が介護関連法案を了承 来年8月から3割負担導入』, 2017年1月27日
・The Guardian, “Nasa-funded study: industrial civilisation headed for ‘irreversible collapse’?”, 26 March 2014
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