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高齢者の医療費、自己負担の上限引き上げは起こるのか?(ニュースを考える)

高齢者の医療費、自己負担の上限引き上げは起こるのか?(ニュースを考える)

疲弊する医療業界

国民1人あたりの日本の医師数は、OECD加盟国の中でも最下位に近いところにあります。もちろん、国によって医療に対する考え方や文化の違いもあるため、医師数だけで、一つの国の医療の良し悪しを判断することはできません。

しかし、日本の医師たちの長時間労働や、医師からの悲鳴に近い提言などに触れていると、やはり、日本の医師数は足りないというのが実感です。医療崩壊と呼ばれるような現象も、多くのメディアで取り上げられるようになってきています。

看護師が足りないという話も深刻です。あまりに激務であるため、看護師の女性の場合、一般の女性の労働者と比較すると、およそ2倍の切迫流産率となってしまっています。

日本の医師数の地域差も、無視できないレベルで格差が出てきてしまっています。しかし、医療をはじめとした社会福祉のための財源が枯渇しつつある今、国は、医師数を増やすという選択をとることができないでいます。

医療費の自己負担の上限を上げると・・・

そうした中、日本の社会福祉にかかる費用を削減しようと、70歳以上の高齢者の自己負担の上限を引き上げようという動きがあります。以下、NHK NEWS WEBの記事(2016年12月9日)より、一部引用します。

厚生労働省は、来年度の予算編成で、一定の所得に満たない70歳以上の人の医療費の自己負担上限額を引き上げる措置について、与党内の異論を踏まえ、引き上げ幅の抑制などを検討していて、決着は週明け以降になる見通しです。

政府は、増大する社会保障費を抑制しようと、来年度予算案の概算要求で6400億円と見込まれている社会保障費の伸びを5000億円程度に抑える方針で、厚生労働省は、来年度の予算編成に向けて、医療・介護分野で高齢者の負担案を示しています。

自己負担の上限を上げると、当然ですが、高齢者の多くは、病院にいくことを躊躇するようになります。これは、医師のところを訪れる高齢者の数を減らす方向に働き、医療業界の激務を緩和させる方向に働くでしょう。

これは、国の財源という視点からはよいことですが、結果として、少なからぬ高齢者は、病院にいく頻度が落ちてしまいます。ほとんどの病気は、その早期発見が鉄則です。しかし、病院を訪れる頻度が落ちてしまえば、その分だけ、早期発見のチャンスも減ることになるでしょう。

必ず弱者から切り捨てられていく

救急車の有料化と合わせて、こうした自己負担部分の上限をあげていくことは、言うまでもなく、日本の社会福祉の後退です。しかし、足りない社会福祉財源と、医療業界の疲弊度合いを考えるとき、もはや仕方がないというのが関係者の実感です。

これは小さな話ではなく、今まさに、日本の社会福祉そのものが、倒壊しようとしているのです。そのとき、切り捨てられていくのは、弱者からと相場が決まっています。

普通に生きていても、病気でもすれば、すぐに弱者になってしまいます。現役時代の年収が1,000万円を超えているようなケースでも、ちょっとしたことで、弱者になります。誰もが「まさか、自分が・・・」という状態になる可能性があるのです。

実際にそのときになってから嘆いても仕方がないことなのです。しかし人間という生き物は、本当に自分がピンチになるまで、行動を変えないという特徴を持っているようです。

※参考文献
・ダイヤモンドオンライン, 『OECD加盟国で最下位レベル!?なぜ日本は深刻な“医師不足”なのか――岩手医科大学 小川彰学長に聞く』, 2010年4月8日
・NHK NEWS WEB, 『高齢者の医療費 自己負担上限額引き上げ 決着は週明け以降に』, 2016年12月9日
・まいじつ, 『医者と病院の不足が極まる「2030年問題」』, 2016年10月15日

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