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自己負担2割の対象が拡大されます。この改悪の着地は?(ニュースを考える)

自己負担2割の対象が拡大されます。この改悪の着地は?

介護保険がカバーしてくれる介護サービス利用料

過去には、介護サービスを利用するときは、その利用料の1割が自己負担というルールが適用されてきました。しかし、2015年8月からは、一部の富裕層(現役時代の年収が1,000万円を超えていたような、所得上位20%に入る層)には、2割負担が課せられるようになりました。

この自己負担2割が適用されてしまう対象が、今後、拡大されていくことが決まりそうです。これは、多くの要介護者にとって厳しいだけでなく、介護事業者にとっても、売上の減少が予想される事態です。以下、NHKの報道(2016年10月15日)より、一部引用します。

急速な高齢化で介護にかかる費用が増え続ける中、厚生労働省は、介護サービスの自己負担の割合が、通常の1割より高い2割とする範囲を、これまでより低い所得の利用者に広げる方向で本格的な検討に入りました。(中略)

厚生労働省は、介護サービスを利用する際の自己負担の割合について、去年8月、単身世帯で年金収入が年間280万円以上あるなど一定の所得がある人については、原則1割から2割に引き上げました。

さらに団塊の世代の高齢化によって、このままでは制度を維持するのが難しいとして、2割負担の対象をより低い所得の利用者に広げる方向で本格的な検討を始めました。

このほか、ひと月の負担が上限を超えた場合に払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」の制度についても、住民税が非課税などの場合を除いて、上限を引き上げることなどを検討しています。

見過ごせない「高額介護サービス費」の上限引き上げ

自己負担2割とはいえ、実は、介護サービスのためにかかる費用は、単純に2倍ではありませんでした。それは「高額介護サービス費」という制度によって、自己負担の上限が決まっていたからです。これを超えた分は、後で戻ってくるという形になっていました。

特に、介護施設に入居している人などの場合は、これに該当することが多く、助けられてきたという背景があります。今回の報道では、この部分への変更にも触れられており、かなり大きな改革となる見通しです。これ以上、今の介護施設に入居していられないという人も出てくるでしょう。

これだけの負担の増加が意味するところは、もはや介護の社会化ではなく、介護は(運の悪い)家族が責任を持つということです。こうした介護保険制度の改悪は、要介護者やその家族にとって厳しいだけでなく、介護サービスの利用が抑制されるため、介護事業者にとっても売上の減少につながる大変な事態です。

どうして、このような改悪が通ってしまうのか

以前『介護保険の財源確保における「交渉術」を知っておいたほうがいい。』という記事でも紹介していますが、こうした改悪を進めるためのノウハウが存在していることは、理解しておくべきでしょう。

富裕層に限定された、2015年8月からの自己負担割合の変更に対して、反対したのは誰でしょう。それは、実質的に、富裕層の該当者だけでした。該当者は、だいたい20%とされており、残りの80%は「自分に関係がない」と考えていたはずです。

20%の反対では、民主主義国家においては、不十分な数です。ですから、いつのまにか、一部の該当者には、自己負担2割という世界が出来てしまいました。そして今さら、一部の該当者の自己負担2割という不公平を問題視する人は(ほとんど)いません。

今後、新たに自己負担2割となる該当者もまた、おそらく、所得の上位40%程度の人までとなるでしょう。所得の上位20%までは、すでに自己負担2割となっていますから、これに反対する理由がありません。自分はすでに2割負担だから、関係ないどころか、むしろ公平だと感じるでしょう。

新たな変更でも自己負担増加の対象とならない、残りの60%の人もまた「自分に関係ない」と感じるでしょう。そうすると、このような改悪であっても、それに反対するのは、また20%ということになります。大多数は、これに関心がありませんから、この反対も聞き入れられないわけです。

社会的なレベルで何かを改悪するときは、ターゲットとなる人を細かく分断し、小さな集団を対象とすればよいのです。大多数は、自分に関係のない改悪については、関心を示しませんから、改悪は意外とすんなり通ります。あとは、段階的に、こうした小さな集団を一つずつターゲットにすれば、いつしか、全体を改悪の内側とすることができるというわけです。

残念ですが、直接自分に害が及ばない限り「自分には関係がない」と考える人で構成される社会では、制度の改悪は簡単なのです。自分以外の誰かに降りかかることについても、きちんと配慮できる人が多くいる成熟した社会では、このような改悪は通らないはずです。

繰り返される改悪の着地はどこになるのか

過去に『介護制度の改悪について(まとめ)』という記事で、現時点での改悪の全体像を示しました。これに、今回の報道の内容を加えたら、いけないと思っていても、絶望してしまいます。実際、今後も、今回のような改悪が繰り返されていくことでしょう。

このようにして繰り返される改悪の着地は、介護保険の適用は、要介護3以上に限定されるというあたりでしょう。現在の要介護1〜2は、要支援3〜4というように名称が変更され、介護が必要なレベルとはみなされないようになると考えられます(要介護認定の定義についてはこちらを参照)。

あくまでも予測にすぎませんが、これは、介護という定義が適用されるのは、要介護3以上になるということです。それに満たない場合は、介護ではなくて支援が必要という言葉遊びが適用され、そこへの介護保険からの金銭的な支援は、極端に絞り込まれるということです。

年金もそうですが、日本の社会福祉は、賦課方式(ふかほうしき)と呼ばれる、現役世代が高齢者世代を金銭的に支えるという方式が取られています。介護もまた、賦課方式なのですが、ここで示した着地は「支払うだけ支払って、自分は使えない保険」ということになりそうです。

ここまでの改悪が見えていても、現役世代が怒りの声をあげない理由はなんでしょうか。それは『「極貧の状態にある人を国が救うべきか?」という質問に対して「反対」と回答した人の割合は○○%』でも示した、正常性バイアスが存在しているからです。

私たち一人ひとりが、そろそろ「自分には関係ない」という気持ちと戦わないと、本当に手遅れになります。

参考文献
・NHK NEWS WEB, 『介護保険制度 厚労省 自己負担2割の対象拡大を検討』, 2016年10月15日

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