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先に『高齢者の貯蓄はモデル世帯でもギリギリという事実について』の記事でも示した通り、高齢者の約6割は、老後を過ごすための貯蓄が足りていません。高齢者がお金を溜め込んでいるというのは、正しくないのです。
貯蓄が足りないのですから、本来であれば、働かなくてはなりません。しかし、高齢者が条件の良い就職先を見つけるのは容易なことではありません。そうなると、高齢者の多くは、生活を切り詰めて生きていくしかありません。
生活を切り詰めればなんとかなる高齢者は、まだいいほうです。現実には、高齢者世帯のうち、貯蓄がゼロという世帯が16.8%もあります。そうした高齢者は、年金だけが頼りなのですが、増税や社会保険料の高騰によって、年金があっても、破綻状態に至ってしまう高齢者が増えているのです。
そうした中、介護保険料が支払えないことによる資産の差し押さえという事例が増えています。以下、読売新聞の報道(2016年5月23日)より、一部引用します。
介護保険料を長期にわたって滞納し、市町村から資産の差し押さえ処分を受けた65歳以上の高齢者が、2014年度に初めて1万人を超えたことが厚生労働省の調査で分かった。高齢化を背景に保険料が上昇し、負担できない高齢者が増えていることが背景にあるとみられる。
もちろん、介護保険のような社会保険料を支払うことは国民の義務です。また、高齢者になるまで十分な貯蓄ができなかったことは、自己責任といえばそれまででしょう。差し押さえも、法的には問題のないことであり、仕方がないのかもしれません。
しかし、もはや貯蓄がゼロであり、ギリギリの生活をしている高齢者の家から、家具やら車やらを取り上げて、何が解決するのでしょうか。戦後の日本を支えてきた高齢者たちに、惨めな思いをさせて、ほとんど自殺を強要するようなことを、年間1万人もの規模で、国家が行っているのです。
本来であれば、こうした高齢者には生活保護を受ける権利があり、その場合は、社会保険料の支払いも免除されることになっています。しかし、生活保護は窓口で追い返して受けさせず、ギリギリの生活を強いた上で、資産を差し押さえるようなことを、現実に国が行っているのです。
かたや、公務員の年収は、2年連続で増加しています。公務員は、クビになるリスクも、倒産のリスクもほとんどゼロというのに、待遇が良いので、新卒大学生の人気職種になっています。大学生による人気就職先ランキングで、公務員が1位になるような社会が、私たちが求めている社会なのでしょうか。
言うまでもありませんが、公務員も必要です。公務員の中には、自衛隊員、警察官、消防士のように、生命のリスクを負っている人々もいます。こうした人々がいればこそ、国家の安全が守られてもいます。ですから、公務員そのものを否定しているわけではないことは、余談になっても、ここで強調しておきたいです。
繰り返しになりますが、現時点で、6割もの高齢者の貯蓄が足りていないのです。今後は、増税や社会保険料の高騰によって、さらに貯蓄が足りない高齢者が増えていくでしょう。6割が7割に、7割が8割になっていきます。
この中に「自分自身は該当しない」と自信を持って言えるのは、一部の富裕層と公務員くらいでしょう。では、富裕層でなかったり、公務員でないことは、自己責任なのでしょうか。そのロジックは、本当に正しいのでしょうか。
富裕層になるには、親が富裕層である必要があります。一代で財を築く人もいますが、あくまでも少数派です。ですから、富裕層でないことは、自己責任ではありません。この点については、トマ・ピケティがベストセラー『21世紀の資本』によって世界に示したことです。
公務員でないことは、たしかに自己責任かもしれません。しかし、公務員という存在は、民間から吸い上げた税金がなければ成立しません。全ての国民が公務員になるということは、共産主義国家になるということです。それが私たちの回答なのでしょうか。
税金として集めたお金の使い道が正しいのか、それについての追求をしないままに、自己責任で片付けてしまって良いとは、どうしても思えないのです。
これを認めてしまえば、公務員の安定した生活を守るために、民間は大きなリスクと責任を同時に負わされることになります。そして私たちの多くは、人生の晩年において、資産を差し押さえられ、着るものも食べるものにも困りながら、失意のうちに死んでいくのです。
※参考文献
・読売新聞, 『介護保険料の長期滞納、差し押さえ高齢者1万人』, 2016年05月23日
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