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高齢者の貯蓄はモデル世帯でもギリギリという事実について

高齢者の貯蓄

モデル世帯の年金支給額は月額約22万円、平均支出は約27万円

まず、年金の平均支給額は、国民年金が平均月額で5万4千円、厚生年金が14万8千円ということでした。ただ、実際に受け取れる厚生年金は、現役時代の年収や勤続年数にも依存しますので、その計算は複雑です。

とはいえ、夫が40年間サラリーマンとして働いていて、妻が専業主婦の場合は、世帯としては月額約22万程度がモデル支給額(厚生労働省による)になります(モデル世帯)。これが自営業者の場合は、夫婦共働きでも、年金支給額は月額11万円程度にしかなりません。

総務省統計局による調査(平成26年度家計調査年報)では、高齢者世帯の支出は、夫婦で毎月約27万円程度でした。また、生命保険文化センター(平成25年度)によれば、高齢者の「ゆとりのある生活」には、毎月約35万円が必要とも言われます。

平均的なところで考えると、月額約22万円の年金収入に対して、毎月約27万円の支出ですから、月のマイナスは約5万円、年間で約60万円の赤字です。自営業者だと月のマイナスは約16万円、年間で約192万円もの赤字になります。

高齢者世帯の平均貯蓄額は1,268万円

高齢者になって、特に仕事をしていない場合、毎年、大きな赤字になります。そうなると、貯金を切り崩していかないと生活が成り立たないわけです。そこで、高齢者の貯蓄額について調べてみると、世帯平均は1,268万円(常陽銀行, 2015年)でした。

先の、サラリーマンの夫と専業主婦というモデル世帯の場合、これは、約21年間の赤字をまかなえる(毎年60万円の赤字とした場合)ということです。これなら、ギリギリなんとかなりそうです。

しかし、平均の貯蓄額を押し上げているのは富裕層です。実際に、貯蓄額が1,000万円以下の高齢者世帯は、全体の57.9%にもなります。貯蓄額が1,000万円を下回ると、モデル世帯でも、平均寿命から逆算しても足りなくなってきます。

これはあくまでもモデル世帯で、実際には自営業者もいますし、貯蓄がゼロという高齢者世帯も16.8%もいます。貯蓄額が500万円以下としても、43.5%もの高齢者世帯が、ここに含まれてしまいます。500万円以下だと、8年分程度の生活費にしかならず、明らかに足りません。

足りない部分は、子供に頼ったり、生活保護に依存することになります。高齢者の貯蓄の不足分は、直接・間接に、現役世代が負担することになるわけです。現役世代は、現在の高齢者世代よりも年金支給額などの面について厳しくなるのは明白なのに、自分たちの貯蓄を切り崩しても、高齢者を支える必要にせまられているのです。

高齢者も、この自覚を持っている

では、当の高齢者たちは、どう考えているのでしょうか。TBS NEWSが、次のような報道をしています(2016年5月20日)。

60歳以上の6割近くが「老後の備えが足りない」と感じていることが、20日に閣議決定された「高齢社会白書」でわかりました。

今年の高齢社会白書では、全国の60歳以上の男女およそ1100人を対象に老後の生活や意識について聞き、欧米の3か国と比較しました。

その結果、「老後の備えとして現在の貯蓄や資産が足りない」と答えた人が、日本は全体の57%に上りました。アメリカやドイツでは「老後の備えが足りない」と答えた人が20%前後だったのに対し、日本の割合は高くなっています。

貯蓄が足りないと答えた割合が57%というのは、ちょうど、貯蓄額が1,000万円以下の高齢者世帯の割合に相当しています。これは、現在の高齢者たちも、かなり正確に金銭的な危機感を持っていることを示すでしょう。

ということは、高齢者たちは、少しでも無駄遣いを避け、生活を切り詰めていきます。贅沢ができる高齢者もいるでしょうが、全体としては、高齢者向けのビジネスというのは、厳しくなっていくことも予想されます。

これから、医療や介護も、保険でまかなえる分が減っていくことを思うと、暗い気分にもなります。とはいえ、これから現実に起こっていくことを直視することからしか、課題は見えてきません。この国難を乗り越えることができるか、日本全体が未来から試されているのです。

※参考文献
・常陽銀行, 『年代別貯金総額の平均と毎月の貯金額目安』, 2015年4月21日
・TBS NEWS, 『「老後の備え足りない」 60歳以上の6割近く』, 2016年5月20日

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