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【メディア掲載30】NHK『クローズアップ現代+』”息子介護”の希望をさがして

クローズアップ現代+
(番組収録後の集合写真/転載禁止)

NHK『クローズアップ現代+』のスタジオゲストとして

NHK『クローズアップ現代+』は、1993年から放送されている、NHKの看板番組です。毎週月曜日から木曜日まで、現代を知るために様々な切り口で、番組の制作を行っています。そんなNHK『クローズアップ現代+』の昨晩(2018年7月3日)の放送に、私(酒井穣/さかい・じょう)が、スタジオゲストとして出ています。

テーマは、息子介護でした。NHK『クローズアップ現代+』を担当する50代の番組ディレクターが、自分自身の介護を通して感じた疑問や発見をシェアするという形式で、このテーマが深堀りされています。私は、これに対してコメントをつけるという役割を担いました。以下、番組の紹介を引用します。

いま、「息子」が親を介護する“息子介護”が増え続けている。厚生労働省の調査では、「息子」に介護される高齢者は17%に達し、初めて「嫁」を上回った。一方で、介護中の虐待は、「配偶者」や「娘」に比べて、「息子」が圧倒的に多いというデータもある。昨年から母親の介護を始めた番組担当ディレクター(50代)。慣れない家事や介助に戸惑いながら、悪戦苦闘の日々を送っている。ディレクターが介護の悩みをネット動画で公開。同じ境遇の「息子」たちや専門家とつながり、よりよい介護をするためのヒントを探った。

まず、男性が介護をするということについて、より詳しく考えたい場合は、こちらから、KAIGO LAB の過去記事を参照してください。今の時代、男女の性差を問うこと自体に違和感をもたれる方もいると思います。しかし現実として、介護には、様々な角度から男女差というものが認められるのです。

限られた時間内で伝えきれなかったこと

番組の制作には厳しい時間管理が求められます。その枠内でのコメントだったため、私として時間内では伝えきれなかったことを、以下、KAIGO LAB の記事リンクとともに示しておきます。番組では、簡単に述べられていることも、裏側にはかなりの困難もあります。

1. 介護とは「生きていてよかった」という瞬間の創造

日々の仕事を頑張れるのは、仕事は手段であり、目的は自らの幸福の追求になっているからでしょう。そうした目的としては、家族との幸せな時間の確保や、仕事を通した自己実現など、それぞれに異なると思います。ただ、そうした目的がなければ、日々の仕事の意味も薄れてしまいます。これと同じように、介護もまた、なにか別の目的をもった手段です。その目的とは、要介護者が「生きていてよかった」と感じられる瞬間の創造にあります。ここがズレると、介護はただ辛いばかりのものになってしまいます(それでもなお辛いことには変わりがありませんが)。より詳しくは過去記事『私たちは誰かの「生きていてよかった」という瞬間のために』を参照してください。

2. 罪悪感(自己意識的感情)について

少なからぬ人が、介護をひとりでこなそうとしてしまう背景には、罪悪感がある場合も多いと考えられます。しかし罪悪感は、その結末として、自らが幸福になることの放棄に至ってしまうことがあるのです。そうした罪悪感から介護を頑張ると、介護を受ける親のほうもまた、罪悪感にとらわれてしまいます。番組中で示されたVTRでも「息子に申し訳ない・・・」という親のコメントがありました。それで親が自らが幸福になることを放棄してしまえば、介護の目的が達成されません。ですから、これは見過ごせない部分でした。より詳しくは過去記事『罪悪感(自己意識的感情)とどう向き合うのか』を参照してください。

3. 介護はできるだけプロに任せること

仕事で一人前になるのに、何年くらいかかりますか?もちろん業界や職種にもよるでしょうが、数年という意見は少ないはずです。10年くらいは必要という意見も多いのではないでしょうか。では、介護はどうでしょう。介護というのは様々な専門性が求められる、非常に高度な仕事です。介護のプロは、日々、そうした専門性を身につけるために努力しています。番組のVTR(入れ歯の噛み合わせが悪かった)にもありましたが、介護が重度化する原因は、素人にはとても想像ができないところにあったりもします。仕事において、1年目の新人に全てを任せるということはないでしょう。ではなぜ、介護の場合、未経験の自分が全てをこなせると考えてしまうのでしょう。より詳しくは過去記事『介護福祉士の新・養成カリキュラムを読み解く』を参照してください。

4. 「一人で抱え込まないで」と伝えるだけでは無意味

こうした番組を見て、介護は長期のチーム戦であることは理解したとします。しかしだからといって、現在、仕事と介護の両立に苦しんでいる人に対して「一人で抱え込まないで」と伝えるだけでは無意味です。なぜなら、負担の大きい介護をこなしている人は、好きで介護を抱え込んでいるわけではないからです。そうした人は、他に方法がないと考えているからこそ、結果として、苦しくても介護を抱え込んでいます。こうした人に必要なのは、介護を抱え込まないですむような、具体的な解決策です。地域包括支援センターや社会福祉協議会などと連携し、より多くの人が、その介護に関わるようにすることです。より詳しくは過去記事『介護における「抱え込まないで!」という残酷。』を参照してください。

5. 介護を自分の人生の一部として肯定するために

介護があること自体からは逃げられません。そしてその日々の内容は、とても辛いものです。「どうして、こんな目にあうのだろう」「いっそ、死んでくれないかな」といった感情は、介護をしていれば、誰もが心に思い描くことです。そして、介護の重さによもよりますが、仕事と介護を完全に両立するというのは不可能です。介護があれば、自らのキャリアは、想定していたものとは異なっていくものです。そうした介護の現実に対して、私たちには「意味付け」が必要です。この視点から執筆したのが拙著『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』でした。そもそも、今回のNHKからの依頼は、NHKのディレクターにこの本を読んでいただいたことがきっかけです。よろしければ、こちらにも目を通していただけたら幸いです。

お問い合わせなど

番組では紹介しきれませんでしたが、現在、私は介護離職を防止するためのITサービスを開発し、株式会社リクシスにて展開しています。また、ヘルスケア領域において複数のスタートアップを立ち上げ、経営者として活動しています。介護に関する講演や研修も行っています。こうした私の様々な活動に興味を持っていただき、なんらかの事業を共に進めてもよいという場合、以下よりご連絡を頂戴できたらと思います。よろしくお願いします。

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ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由