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生協(生活協同組合)は、世界的にみられる消費者が集まってできている組合です。日本では、100年以上前に母体となる組織が成立しています。現在では、消費生活協同組合法(生協法)によって管理されています。この生協が行っている宅配カタログ販売事業であるパルシステムを使っている人も多いでしょう。
以前の記事でも、このパルシステム(生協)が介護に参入する可能性について指摘しました。それが今月、正式に発表されています。以下、日本経済新聞の記事(2018年5月22日)より、一部引用します。
日本生活協同組合連合会(東京・渋谷)は22日、高齢者が自宅で自立した生活を送れるように支援する介護サービスを全国の生協に導入すると発表した。トイレや入浴、食事といった生活行為を介護職員が利用者の代わりに担ういわゆる「もてなし型」ではなく、利用者が主体的に行動する仕組みにする。(中略)
自立支援で実績のある市民生活協同組合ならコープ(奈良市)が母体の社会福祉法人、協同福祉会(奈良県大和郡山市)のサービスを全国展開する。同会は「家庭浴をする」「町内にお出かけをする」など10項目を基本とし、高齢者の在宅生活を支援してきた。(後略)
生協は、この全国展開のために、介護の研修拠点を増設し、職員の教育を進めるそうです。これは、現在介護を展開している全国の介護事業者にとって脅威になるでしょう。生協は、消費者のための組合であり、組織として利益をあげることを目指さないのですから、競合としてはかなり手強い相手になります。
消費者の目線からすれば、現在、パルシステムが届く範囲においては(おそらくは)在宅介護も同時に発注できるようになるわけです。これは、生活の基盤になり得るインフラが登場したということであり、大手の介護事業者が1つ増えたということ以上の意味があります。
既存の介護事業者との最大の違いは、パルシステムという生活必需品の宅配カタログ販売事業を持っているところです。このカタログの一部に、介護サービスも掲載されていくと考えると、生協は、介護を超えて、高齢者の生活のワンストップショップになり得るわけです。
これは、高齢者にとっては本当に便利です。生協の信頼もあるので、安心でしょう。便利で安心なだけでなく、そもそも生協は組織として利益の追求を目指していないため、商品が安価に提供されます。便利で安心、そして安いのです。
既存の介護事業者にとっては、しかし、これは相当な脅威です。脅威というよりも、同じ土俵で戦うと、まず勝てない相手ということになります。そうなると、既存の介護事業者は、競争戦略を変えないとならなくなります。
普通に訪問介護を提供するだけでは、勝てないでしょう。特に、そもそも採算が合わないところでは、生協の一人勝ちになると考えられます。既存の介護事業者としては、より専門性の高い介護サービスに事業をシフトさせ、混合介護と合わせて、事業採算性の高い顧客の獲得が必要になっていきます。
保険外サービスも組み合わせる混合介護は、お金のある人しか使えないことが問題視されてきました。しかし、お金の足りない人は、生協に頼れば大丈夫になる可能性もあります。そうなれば、生協と既存の介護事業者はターゲットになる顧客が異なり、住み分けしていけるかもしれません。
ここで、既存の介護事業者と生協の住み分けができない場合、大きな悲劇が生じる可能性もあります。まず、住み分けができない場合、生協が多くの地域で勝利をおさめ、既存の介護事業者は倒産したり、廃業に追い込まれたりします。
そうなると、在宅介護においては、生協だけが頼りということになります。もちろん、それで日本の在宅介護の全てがカバーできるなら、ある意味で、介護業界の再編ということであり、消費者からは歓迎できる流れかもしれません。
しかし、日本の高齢化は恐ろしい速度で進んでおり、これから要介護者も急増していきます。介護業界は、そもそも人材が不足しており、この急増に追いつけないでいます。そんな状況の中で、要介護者(顧客)の獲得競争が激化してしまい、介護事業者の数が減ってしまえば、日本の介護が崩壊してしまうかもしれません。
既存の介護事業者と生協が、住み分けに失敗するとき、日本は大変なことになります。確かに、生協が介護サービスを提供してくれることは、個別には良い話に違いありません。しかし日本全体を見渡したとき、これは意外と怖いことだったりもするのです。
※参考文献
・日本経済新聞, 『在宅・自立を支援 日生協、介護サービスを全国展開』, 2018年5月22日
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