KAIGOLABの最新情報をお届けします。
日本における住宅の9割は、民間の所有になっています。特に新築住宅の場合は、約98%というレベルで、民間が建設したものです。こうして、日本の住宅は、民間の所有と貸借りによって成立しているため、ほぼ完全に市場の原理で運用されています。
しかし、市場の原理だけで運用されていると、高齢者、障害者、外国人、低所得者、小さな子供のいる家庭など(=要配慮者)は、不利になってしまいます。民間の大家からすると、要配慮者に家を貸すことにはリスクがあります。どうしても、物件で死亡されてしまったり、家賃が支払われなかったり、騒音問題が発生する心配もあるからです。
実際に、国土交通省が実施した大規模な調査(家主約27万人)によれば、高齢者の入居に拒否感がある家主は、なんと70.2%にものぼります。ここまでいくと、日本では、高齢者が差別されていると言ってしまってよいでしょう。
こうした背景には、偏見が多くあります。現実には、要配慮者と言われる人々が、他の人々よりもリスクが高いとは言えないケースも多いはずです。しかしだからということで、市場の原理そのものを曲げることは困難です。個人レベルで、リスクを回避しようとするのは、個人の自由だからです。
本来であれば、公営住宅というのは、このような要配慮者のためにこそあります。しかし、国の財源が枯渇しつつあることと、高い日本の地価によって、今後十分な公営住宅を建設していくことは、現実的な解決策にはなりえません。
そこで、それぞれの所得、心身の状況、家族構成に合わせて、誰もが自分に合った住居が得られるように整備されたのが住宅セーフティーネット法です。民間にだけ任せておくと、不当な扱いを受けてしまう可能性のある要配慮者を守ることが目的になっています。
政府は、これまでの住宅セーフティーネット法だけでは、対策として不十分と判断したようです。住宅セーフティーネット法の改正が提案され、閣議決定(2017年2月3日)されました。以下、日経新聞の記事(2017年2月14日)より、一部引用します。
政府は空き家を活用し、高齢者や子育て世帯の入居を拒まない賃貸住宅として登録する制度などを盛り込んだ「住宅セーフティネット法」の改正案を閣議決定した。改修費の手厚い補助などを組み込んで、住宅確保に配慮が必要な世帯の受け皿づくりを狙う。2017年内の施行を目指す。(中略)
総務省や国交省の調査によると、全国の空き家総数は13年10月時点で約820万戸存在し、そのうち賃貸用の住宅は429万戸に達する。十分な耐震性が確保され、駅から1km以内にある住宅は約137万戸に上る。これらの空き家を、住宅セーフティーネットとして活用すれば、要配慮者の住宅確保とストック活用を同時に実現できる。
そこで住宅セーフティネット法改正案では、要配慮者向けの賃貸住宅供給の促進を図るための計画を、地方公共団体が作成するよう促す。さらに、空き家などを要配慮者の入居を拒否しない賃貸住宅として、賃貸人が都道府県などに登録する制度を創設。賃貸人が登録住宅を改修する際の費用を、国や地方公共団体が補助できるようにする。(後略)
今回の改正では、こうして、空き家の活用と、補助金の設置が行われます。これで十分かどうかはわかりませんが、よい方向にいくことは間違いないでしょう。国土交通省の取り組みを評価したいところです。
こうした要配慮者の中で、数として、もっとも多いのは、単身高齢者です。単身高齢者は、要配慮者の中でも、家主からするとリスクが高いと判断されやすい対象でもあります。孤独死の問題もありますし、財政的に厳しい環境に置かれやすいと考えられるからです。
しかし、単身高齢者は、今後10年間で100万世帯の増加が見込まれています。また、その背後には2025年問題もひかえています。単身高齢者の暮らしについては、すぐにでも取り掛からないと、間に合わなくなってしまうのです。
こうした課題を、今回とりあげた住宅セーフティーネット法だけで解決することはできません。また、100%の要配慮者に対して、きちんとした住環境を届けることもできないかもしれません。それでもなお、こうした前向きな活動を積み上げていく以外に、打ち手はないのです。
※参考文献
・国土交通省住宅局住宅整備課, 『高齢者・障害者等の住まいの確保』, 2008年2月
・国土交通省, 『住宅セーフティネットに関する現状と論点』
・国土交通省, 『「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定』, 2017年2月3日
・日本経済新聞, 『「住宅セーフティネット法」の改正案 年内に施行へ』, 2017年2月14日
・西日本新聞, 『「空き家」法改正 高齢者を拒まない社会へ』, 2017年2月22日
KAIGOLABの最新情報をお届けします。