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介護家族の「睡眠時間」を重要業績評価指標(KPI)にすべきだ

家族の「睡眠時間」を重要業績評価指標(KPI)にすべきだ

QOLを決める重要要因としての睡眠時間

睡眠に関する研究は、世界的な注目を集めています。睡眠に課題を抱えていると、様々な病気のリスクが高まり、果ては生死に関わる問題にまで発展することが知られているからです。

こうした研究が積み上がるに連れ、睡眠の課題は、各国において国家戦略レベルでの健康問題として認識されてきています。国民の睡眠について、その質と量を確保していくことは、QOL(quality of life)向上に対して、大きな意味を持っているのです。

医療や介護のための社会福祉予算が枯渇してきています。そうした中、国民の睡眠について、その質と量を適切なものにしていくことは、国民の健康を増進させ、ひいては社会福祉予算の低減にもつながります。まさに、最重要課題と言ってよいのです。

日本人の睡眠時間について

まず、2009年のOECDの調査によれば、日本人の平均睡眠時間は、調査された18カ国の中でも下から2番目、7.8時間でした。2010年のNHKによる国民生活時間調査では、特に40~50代の平日の睡眠時間が7時間を切っており、問題が浮き彫りになっています。

OECD18カ国の平均睡眠時間

嫌な話ですが、収入と睡眠時間にも相関性があるようです。マイナビニュースの調査報道(2014年10月15日)によれば、高収入の人ほど睡眠時間が長いことが判明しています。ここには、低賃金で長時間労働という厳しい環境の中で睡眠時間を削らざるをえない労働者の姿が見えます。

介護疲れの背景には睡眠時間の短さがあるはずだ

介護をしている家族の平均睡眠時間についての調査では、平均6.38時間という結果が得られています(小林, 2002年)。同調査において、仕事をしながら介護をしている人に限定すると、平均の睡眠時間は6.19時間にまで落ちます。

この調査において、最も悪い数字は平均の睡眠時間が4.5時間というものでした。これは、他国と比較すればただでさえ少ない日本の睡眠時間の平均よりも、3.3時間も短いという結果です。

介護疲れからの介護離職、虐待や介護殺人が問題視されていますが、その背景には、短すぎる睡眠時間(または低い睡眠品質)が隠れているのではないでしょうか。

そう考えたとき、要介護者(利用者)の自立や満足といった指標も大事ですが、介護をする家族の睡眠時間も重要業績評価指標(KPI)とすべきだと思うのです。同時に、介護サービスの提供者には、そのサービスによって、家族の睡眠時間が増えたかどうかの検証が求められていくべきでしょう。

※参考文献
・土井 由利子, 『日本における睡眠障害の頻度と健康影響』, 保健医療科学 61(1), 3-10, 2012年2月
・上村 一貴, et al., 『勤労者における抑うつ症状に関わる諸因子のパス解析モデルを用いた検討』, 理学療法学, 42(1), 42-49, 2015年2月20日
・後藤 一成, et al., 『高脂肪食と睡眠時間の短縮がメタボリックシンドローム関連因子に及ぼす影響』, 日本体育学会大会予稿集, (64), 177, 2013年8月28日
・OECD, 『OECD図表でみる社会2009』, 2009年
・The Asahi Sinbun GLOBE, 『眠らない日本人。理想は、7時間?8時間?』, 2016年12月16日
・マイナビニュース, 『高年収の人ほど「朝型」で、しかも「睡眠時間が長い」傾向にあると判明』, 2014年10月15日
・小林 良二, 『生活時間と介護時間』, 人文学報(No.329), 社会福祉学(18), 2002年3月

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