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今、オランダ発の介護システム、ビュートゾルフ(Buurtzorg)が注目を集めています。正式には、ビュートゾルフ・オランダ(Buurtzorg Nederland)という非営利団体が、2007年に4人ではじめた在宅介護支援の新しいモデルです。
このモデルが成功し、2016年時点では、オランダ全土に約830チームが分布しています。従業員数は9,000人、利用者(要介護者)の数は約7万人にもなります。オランダでトップの利用者満足度(9/10)を誇るだけでなく、オランダの最優秀雇用者賞を複数回獲得しています。
ここまでなら、ちょっと成功した組織というイメージかもしれません。しかし、世界的な注目を受けているのは、この成果を、通常の在宅介護支援の半分のコストで実現しているという部分です。社会福祉の財源に悩んでいるのは、どこの国も同じですから、注目を集めるのも当然でしょう。
現在は、スウェーデン、ベルギーやアメリカでの導入がはじまっているだけでなく、日本でも、ビュートゾルフを導入する動きが本格化しつつあります。果たして、このモデルが日本でも定着するのか、まだわかりません。それでも、試すべき価値のある活動です。
ビュートゾルフにおける在宅介護支援は、最大12名で構成される看護師のチームにより提供されています。この組織の特徴は、完全にフラットな組織であるという点です。管理者がおらず、利用者との関係性まで含めて、階層のない組織になっています。
管理者がおらず階層もないのですから、個々の看護師は、自分で考えて、自分勝手に動きます。1チームは、40〜50名のあらゆるタイプの利用者への支援を行っています。チームの構成員には、専門性だけでなく、多様な利用者に対応するジェネラリストであることも求められます。
オランダの在宅介護支援における看護師の割合は、通常は10%程度のようです。しかしビュートゾルフでは、その70%を看護師が占めています。残りの2割が介護職で、1割がリハビリの専門職という構成になっています。
ビュートゾルフが注目しているのは、利用者を中心としたインフォーマル(非公式)で個人的な関係性です。インフォーマルな関係性は、日本の在宅介護においても、熟練の介護職であれば、それに注目し活用しています。
しかし、ビュートゾルフと日本の在宅介護が異なるのは、ビュートゾルフが、インフォーマルで個人的な関係に対して、組織的で取り組んでいるという点でしょう。ここは、言うは易しであり、実際にこれを行うのは簡単ではありません。
まず、そもそもオランダはかなりフラットな社会です。ここは、神と個人の直結を前提とした、プロテスタントを背景としていることが大きいと言われています。神の前では、個人は皆がフラットであるという考え方です。
この背景は、日本とはかなり異なります。そもそもビュートゾルフが、完全にフラットな組織であることができるのは、オランダの風土があってのことでしょう。特に、組織の側がフラットであれたとしても、利用者まで含めてフラットというところは難しそうです。
日本では、お客様は神様という発想が根深くあり、お金を払っているほうが偉いという感覚があります。しかし、オランダでは、客のほうが偉いという発想は皆無です。ですから、オランダでは、日本に見られるような「おもてなし」も(ほとんど)ありません。
さらにオランダは、もともと、インフォーマルな関係性を大切にしてきた社会です。知らない人でも、ご近所になれば、相手を自宅に招いて、コーヒーを飲みながらクッキーを食べるという文化もあります。
オランダは、OECD諸国の中でも、個人が孤立しない国として有名です(最も社会的孤立が少ない国)。逆に日本はといえば、OECD諸国の中でも、個人の孤立が最悪の状態にあります。
ボランティア活動への参加率が非常に高いのもオランダの特徴です。そもそもビュートゾルフは、高度な専門性をもった看護師により構成されている非営利組織ですが、これと同じことが、そもそも看護師の足りない日本でやれるとは思えません。
そして、忘れてはならないのが、オランダのファミリー・ドクター(家庭医)制度です。オランダでは、誰もが1人の医師を窓口として、医療につながっています。この医師は、1つの家族全員を担当していることが多く、家族の歴史や価値観についても、自然と把握しています。
まず、完全自律型のフラット組織は、日本に定着するでしょうか。日本には、どうしても医師を中心としたヒエラルキーがあり、医療と介護の間にも、越えられない壁があります。しかし、こうしたヒエラルキーや越えられない壁は、放置しておいて良いものではないでしょう。
次に、現実問題として、看護師の数が足りない日本で、看護師70%というレベルの専門性を持つ非営利組織を作れるでしょうか。さすがに、現実的とは言えない感じがします。日本では、介護職のレベルを高める方法で、これに近づくしかないでしょう。
利用者も、顧客意識ではなく、介護サービスの提供者に対して仲間意識を持つことが大事です。そして、社会から孤立しないように、自助努力できることが大切になります。介護職もまた、これを積極的に支援していくようなことが求められるでしょう。
そしてなにより、ファミリー・ドクター制度については、日本もそれを検討すべき段階に来ているかもしれません。医師から、無駄な書類仕事をはがし、本来あるべき形に移行していかないと、どうにもならない点でしょう。
以上のように、ビュートゾルフの日本への導入には、かなりのハードルがあると言わざるを得ません。しかし、これらのハードルは、超える価値の高いものだと思います。少しずつではあっても、オランダの成功事例に学び、社会のほうを変化させていく必要があるでしょう。
※参考文献
・ヨス・デ・ブロック(堀田聰子訳), 『ビュートゾルフ:持続可能なコミュニティーケアモデル』, 2014年10月29日
・医学書院, 『訪問看護と介護/日本版ビュートゾルフ始動!』, 2016年5月号
・社会実情データ図録, 『社会的孤立の状況(OECD諸国の比較)』
・長坂 寿久, 『オランダモデル―制度疲労なき成熟社会』, 日本経済新聞社(2000年)
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