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要介護からの卒業を(本気で)目指す!石巻市の一般社団法人「りぷらす」の取り組み

要介護からの卒業を(本気で)目指す!石巻市の一般社団法人「りぷらす」の取り組み

要介護者、介護給付費は膨らみ続けている

4月に起きた熊本地震では、多くの被害が出ました。今もなお、元の生活に戻ることが出来ない人がたくさんいます。一日も早い復興を祈るとともに、自分たちとしても、できることをしていきたいです。

災害が起きると、避難所等での生活が続き、多くの人が何らかの不調を抱えることになります。高齢者やそもそも要介護状態にあった人であれば、その状態が悪化する可能性が高まります。

避難所での限定された生活は、生活不活発病を引き起こします。関節が固まってきたり、静脈に血栓ができるなど、体の一部に起こるものもあれば、心肺機能の低下や、消化機能の低下など全身に影響するものもあります。また、うつ状態になったり、知的活動が低下したり、周囲への無関心が起こったりもします。

震災後、急増してしまった要介護者

河北新報の記事(2013年10月4日)によると、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県では、震災から2年半経った段階で、要介護者が18.8%も増加しました。これは全国で最も高い増加率です。宮城県内の主要市町村別の介護認定増加率でみると、女川町は95.9%(人口7,303人,2013年11月末)、石巻市では49.5%(人口151,040人)でした。

石巻市は、東日本大震災の被害面積が最も大きかった地域です。2011年に7,149人だった要介護認定者は、3年後の2014年には8,594人まで増えました。行政の予測では591人増であったのに対し、実際は1,445人増だったのです。実に、行政予測の2.45倍にのぼります。

これだけ要介護者が増えてしまうと、介護のために投入しなければならない介護保険からのお金や税金も増加してしまいます。ただでさえ、地方自治体は破綻の危機にあるというのに、ここの費用が増加してしまうと、必要な行政サービスさえ提供できなくなってしまいます。

要介護状態からの卒業を目指す「りぷらす」

こうして石巻市で起きていることは、震災がそれを加速させたとはいえ、日本全国で起こっていることです。その意味で、現在の石巻市の状況というのは、他の自治体にとって「未来」でもあります。ですから、石巻市における介護の状況を理解し、それに対して、自分にできることを考えていくことは、非常に大事なことです。

そんな石巻市で注目される活動があります。石巻市の一般社団法人「りぷらす」によるものです。

「りぷらす」は、要介護者に通所してもらって、リハビリテーションを提供するデイサービス事業者です。「りぷらす」の代表は、理学療法士の橋本大吾さんです。橋下さんは、茨城県の出身で、震災後に、石巻市へ移住して「りぷらす」を立ち上げました。

「りぷらす」の理念は「子供から高齢者まで病気や障害の有無に関わらず、地域で健康的に生活し続ける事が出来る社会を創造すること」です。震災後、高齢者や要介護者の視点に立って、仮設住宅のバリアフリー化に尽力するなど、様々な活動を行ってきました。

そうした活動の中でも、特に注目されているのが「要介護状態からの卒業を目指す」というものです。以前にも記事にしたように、要介護度が下がることは、利用者本人はもちろんのこと、家族や自治体にとっては、とても幸せなことです。

しかし、介護事業者にとっては、要介護者(利用者)の要介護度が下がるということは、売上の悪化を意味しています。ですから、介護事業者として本気で「要介護状態からの卒業を目指す」ということは、自分たちの事業を弱体化させるということでもあります。「りぷらす」は、それを本当に進めているのです。

「りぷらす」の取り組み;リハビリとは「全人間的復権」である!

リハビリテーションとは「歩けないから、歩けるようにする」といった機能回復の訓練ではなく、全人間的復権であると「りぷらす」代表の橋本さんは言います。つまり、自分らしく生きる権利をもう一度回復しようとするのがリハビリテーションなのです。

高齢者に対するリハビリテーションは、この機能回復の訓練で終わってしまうことがよくあります。しかし、一番大切なのは、その機能の回復の先に、社会的な役割を創出し、高齢者の社会参加を実現するところまでサポートすることです。

せっかく歩けるようになったものの、またけがをするといけないから外を出歩かせないというのでは、この社会参加の実現を奪ってしまっています。もちろんそれは優しさから来ているものですが、本当の意味でのリハビリテーションにはならないのです。

「りぷらす」では、要介護3で歩くこともままならなかった89歳の女性が、近所までお茶を飲みに出かけられるようになったり、庭仕事を再開したりしています。また高齢者ではなくても、脳梗塞で右半身が動かせなくなってしまった40代の女性が、左手での洗濯物干し練習や、調理練習などを通して、家庭での役割を再獲得した事例もあります。大腿骨を骨折してリハビリテーションを受けていた男性は、3カ月の利用で見事卒業し、畑仕事や旅行を再開しました。

「りぷらす」の利用者(要介護者)は、リハビリテーションの目標を立て、それを達成し、施設を卒業する時、卒業証書を受け取ります。新しい人生のスタートを切る、節目の式を行うのです。他の利用者も、仲間の卒業を祝い、自分のリハビリテーションへのモチベーションを高めます。

「りぷらす」では、年間で10名を超える要介護者が施設を卒業していきます。たった10名と思われるかもしれませんが、そもそも要介護度が下がること自体が色々な意味ですごいことであるということを忘れるべきではないでしょう。

介護を予防するコミュニティ作りと「おたからサポーター」

「りぷらす」では、リハビリテーション以外にも、介護を予防するコミュニティ作りと人材育成を実践しています。その取り組みの一つに「おたがいカラダ作り(おたから)サポーター」の育成があります。

「おたからサポーター」は、健康寿命を延伸するために、コミュニティ作りと健康づくりをする住民を育て、さらにその地域で体操教室も運営します。このサポーター養成講座は、3級から1級まであり、認定を受けた「おたからサポーター」は、それぞれの地域で体操教室を行います。介護予防はもちろんのこと、健康づくりや居場所づくりを目指し、最終的には生きがいづくりを目指します。

「おたからサポーター」も、最初は自分にあった体操を知るために受講することになります。しかし、それはいつしか家族のためになり、さらには地域のためになっていくのです。こうして、コミュニティ全体が、介護予防で生きがいづくりをテーマに繋がっていきます。自主的なサポーター活動がどんどん広がっています。

「りぷらす」が目指しているまちづくりは、これから日本中で起こる超高齢化に向けて、全国各地でもどんどん取り入れられていくべきものではないでしょうか。そのためには、要介護度が下がり、利用者が減ったとしても、介護事業者が苦しまないような制度作り、待遇改善がどうしても必要です。

※参考文献
・河北新報, 『宮城 要介護増 ワースト 震災2年で18% 福島・岩手も急増』, 2013年10月4日
・石巻市, 『石巻市高齢者福祉計画・第6期介護保険事業計画』, 2015年3月30日

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