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「もう無理!」となっても介護施設は足りない。認知症の要介護者が施設入所となるときの7つの視点とは?

認知症の要介護者が施設入所となるときの7つの視点

増え続ける認知症の高齢者

2012年の段階で、認知症と考えられる人の数は約462万人でした。これは高齢者の約15%にもなります。さらに実は、正常と認知症の中間(MCI)の状態にある高齢者も約400万人いると推定されています。この数字も、認知症としてカウントすると、認知症は、高齢者の約28%に登ることになります。

高齢者の数は、今後もどんどん増えていきます。そこで、これだけの割合の人が認知症ということになると、その全てを、介護施設で受け入れることは到底困難となります。もちろん、認知症を避けるための様々な対策も打たれるでしょうが、近未来において、こうした割合が大きく改善されるとは考えにくいでしょう。

ということは、今後増えていく認知症の要介護者は、介護施設ではなく、在宅での介護になっていくでしょう。しかし、状況にもよりますが、認知症の在宅介護は、非常に大きな負担となるケースも少なくありません。

今後は「これはもう無理だ、介護施設にお願いしたい」と思っても、介護施設は満室で、そうした希望が通らない可能性が高まっていくのです。それを前提として考えると、逆に、どういうときに「もう無理!」となるのかを知っておき、そうならないように注意することが求められるでしょう。

介護施設への入所が必要となるときの7つの視点

こうした「もう無理!」となる状況についての論文(黒澤, 2016年)があります。この論文から、介護者(家族)が、在宅での認知症の介護に限界を感じるときの7つの視点について、以下に簡単にまとめておきます。

視点1. 介護者の体調不良

多くの認知症の介護においては、介護者(家族)は、要介護者から目を離すことができません。そんな過酷な介護において、介護者が、自らの体調を崩してしまうことも少なくありません。そうして自分の体調が悪化しても、介護に忙しくて、医師の受診をするのも遅れがちになります。結果として、自分自身も要介護となることもあり、これ以上、在宅での介護は不可能となってしまうこともあるようです。何事もそうですが、まずは、介護者の体調管理が第一に求められます。

視点2. 要介護者の入院

在宅介護中に、自宅での転倒・骨折、脳梗塞、誤嚥性肺炎などで入院となり、そこから要介護者の状態が悪化し、自宅に戻れないということもあります。このとき、入所できる施設があればよいのですが、今後は、それが期待できなくなっていきます。「この状態で、退院ですか?自宅での介護ですか?」という言葉を発することになる人も増えるということです。当たり前ですが、要介護者の健康についても管理していくことが求められます。しかし、認知症があると、その難易度は上がってしまいます。

視点3. 行動・心理症状(BPSD)の悪化

認知症の要介護者には、いわゆる「徘徊」の問題が起こることが少なくありません。2013年には、日本における行方不明者の12.3%が、こうした「徘徊」によるものだったのです。「徘徊」によって、事故などを起こしてしまうと、家族の法的な責任が問われ、巨額な賠償金が求められてしまう可能性もあります。現実的に「徘徊」のある要介護者を、家族だけで在宅介護をするのは無理です。法整備はもちろん、各種デバイスなどによって、この負担が軽減されないとなりません。

視点4. 介護者の精神的なストレスや不安

毎日のように、夜中の便失禁などに対応することには、限界があります。しかし、ヘルパーを使える条件に該当しなかったり、ヘルパーが足りず、サービスを受けられなかったりすることもあります。介護には終わりが見えず「こういう毎日が、いつまで続くのか」という気持ちになるのは、避けられません。極度のストレスと不安から、介護施設を検討するのは、本当に仕方のないことです。逆にそれでも頑張ってしまうのは危険であり、こうしたケースは、見逃さずに、必要な支援をする必要があります。

視点5. 介護形態による負担

老老介護や要介護者の独居など、介護形態によっては、そもそも無理ということもあります。そこに認知症があって、鍋を焦がすようなことが何度もあると、周囲に迷惑をかけるというレベルではなく、火災による人身事故などにもつながりかねません。介護形態ごとに、こうしたリスクは異なります。ですから、ここの介護形態にあった法整備やデバイスの開発がなければ、介護施設のパンクはなくなりません。

視点6. 第三者からの勧め

施設入所の決断には、ケアマネやヘルパーからの勧めがきっかけになることも多いようです。ケアマネやヘルパーは、多くの介護を見ている専門職であり、彼ら/彼女らの「これは限界」という判断は、かなり信用できます。逆に今後は、こうした専門職による判断を、介護施設への入所の条件とするなどの対応が必要になっていくでしょう。こうしたとき、不公平が起こらないように、また不正が起こらないような体制の構築も必要になるでしょう。

視点7. 介護者や周囲の状況

認知症の介護をきっかけとして、夫婦の仲が悪くなったり、家族がギクシャクしたりといったこともあります。また、近所からの苦情により、精神的に限界となることもあります。そもそも、親の介護のために、家族の幸福が犠牲になってしまうのも、多少であればともかく、全面的ともなれば、本末転倒です。家族の崩壊と、在宅介護を天秤にかければ、在宅介護は続けられないという判断も仕方のないものです。

※参考文献
・黒澤 直子, 『認知症高齢者の施設入所を決定する要因』, 北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要(第7号), 平成28年3月
・厚生労働省, 『認知症施策の現状について』, 社保審-介護給付費分科会, 第115回(H26.11.19)参考資料1

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