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介護において、デイサービスの存在は非常に大事です。引きこもりになりがちな高齢者にとって、デーサービスに通うことは、貴重な社会との接点にもなります。しかし、デイサービスに通うことが、かえって高齢者の元気を奪ってしまうケースもあるようです。
介護職から実際に聞いた話です。
Aさん(70代男性)は、数年前に奥様に先立たれました。Aさん自身も、要介護2の状態にありますが、子供家族は遠方に住んでいるため、日常生活は介護職に頼りつつ、なんとか自立しようと頑張っていました。
しかし、やはり一人きりの生活は孤独で、Aさんは寂しそうにしています。そこで介護職は、Aさんが学生時代に陸上の選手だったことから、科学的なトレーニングを軸としたデイサービスを紹介しました。Aさんも、そのデイサービスで、陸上が好きな仲間ができるかもしれないと楽しみにしていました。
しかし、デイサービスがはじまって1ヶ月、Aさんは、このデイサービスに通うことをやめています。この経験によって、元気になるどころか、かえって引きこもりがちになってしまったのです。
このデイサービスには、確かに、陸上が好きな高齢者が集まっていました。しかし、そこには排他的な固定メンバーによる集団があって、Aさんは仲間はずれにされたというのです。大人気ない話ですが、こうしたことはよくあるそうです。
この後、介護職は、別のデイサービスを見つけて、Aさんはそこに通い、今では本来の元気を取り戻しているそうです。この新しいほうのデイサービスは、陸上とは関係のないものでしたが、それでも、よい結果が出ています。
孤独は、2つの種類があります。一つは、自宅でひとりぼっちでいる孤独です。もう一つは、なんらかの集団の中にありながら、仲間はずれになる孤独です。どちらも、決してよいものではありません。しかし、後者の仲間はずれになる孤独のほうが、人間にとってはずっと辛いものではないでしょうか。
デイサービスを運営する側も、こうした自覚を持っています。ですから、特に新しい高齢者がやってきたときは、なるべく、既存の集団の輪に入れるように、いろいろな工夫をしています。それでも、こうした工夫の効果がないこともあります。
デイサービスに行きたがらない高齢者も多いのですが、その背景には、新たな集団に入るときのストレスがあるのでしょう。「うまく馴染めなかったらどうしよう・・・」とか「いまさら人間関係に悩むくらいなら、一人でいるほうがましだ」といった気持ちになるのも仕方のないことです。
とはいえ、ストレスのある環境というのは、必ずしも悪いものではありません。多すぎるストレスは、悪いものです。しかし、ストレスが少なすぎるのも、悪いものだという認識が必要です。適度なストレスは人生のスパイスであり、人間が元気に生きていくために必要なものなのです。
仲間はずれについては、それなりに、学者による研究が積み上がっています。少しでも多くの高齢者が、デイサービスなどで克服しなければならない仲間はずれについて、こうした研究の成果の一つ(竹ノ山, 2003年)から、知っておくべきことを以下に3つほどまとめておきます。
ごく少数から無視されるだけでも、自分は仲間はずれにされたと感じる人もいます(約4割)。また、その集団の大多数から無視されない限り、そのようには感じない人もいます(約4割)。そして、集団のほぼ半数から無視されると、仲間はずれだと感じる人もいます(約2割)。こうした違いは、無視できないほどに大きなものです。おそらくは、こうした違いは、過去の経験などによって生まれているのでしょう。特に、ほんの少数からの無視でも辛い人にとっては、新規でデイサービスなどに通うのは辛いことでしょう。この場合には、普通よりも多めのケアが必要になります。
残念ですが、誰かを積極的に仲間はずれにしようとする悪い人(加害者)もいます。仲間はずれの被害者としては、こうした人には近寄らないことが大事です。同時に、このような加害者が、被害者のことを仲間はずれにしているのを、仕方なく見ている人(傍観者)もいます。仲間はずれというのは、基本的に無視や軽視が行動の中心です。そのため、こうした傍観者もまた、被害者からすれば、加害者のように見えてしまうことが多いのです。先に見たとおり、ある人が「仲間はずれにされた」と感じるかどうかは、加害者の人数によって変化します。このとき、加害者と傍観者を分けて考えると、加害者の数を減らせるわけです。被害者の周囲にいる人は、被害者と傍観者をつなげてあげることで、状況を改善できるのです。
仲間はずれになっている理由として、被害者の落ち度が明らかなときは、被害者はそれを仲間はずれとは感じないようです。これに対して、仲間はずれにされている理由がわからないとき、被害者は特に被害者意識を強めることがわかっています。ある集団において、仲間はずれが起こってしまった場合、周囲にいる人は、加害者になってしまっている集団に対して、仲間はずれが発生している理由を確認する必要があるということです。そこに正当な理由がない場合は、加害者となっている高齢者には、施設から去ってもらうしかないでしょう。逆に、そこに正当な理由があれば、それを上手に被害者に伝えてあげる必要も出てきます。
※参考文献
・竹ノ山 圭二郎, 原岡 一馬, 『いじめ状況想起におけるいじめ判断についての立場間比較』, 久留米大学心理学研究 2, 49-62, 2003
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