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加齢とともに、薬の管理は難しくなっていきます(服薬管理の基本)

服薬管理の基本

これまでの薬との付き合いを振り返ってみてください

私たちは、普段、どのように薬を活用しているでしょう。たとえば重めの風邪をひいたとき、病院で風邪薬や解熱剤などをもらうでしょう。そこで手に入れたのは、5日分の薬だったとします。ですが、風邪は3日くらいで回復に向かうでしょう。すると、2日分の薬が余ります。

半年後、また風邪をひいたとしましょう。わざわざ病院に行くのも面倒です。そこで、半年前に余っていた薬を飲んだりしていないでしょうか。たしかに、余ってしまった薬はもったいないです。どのみち、病院に行っても同じ薬を出される可能性もあります。

古い薬を飲まないまでも、病院に行けば待たされます。そこで、ネットで調べて素人判断をし、市販の風邪薬で済ませたりしてしまうかもしれません。本当は、こういう薬との付き合い方は正しくないと知っているはずです。ですが、やはり、病院に行って、さらに別の日に検査をしてというのは、面倒なのです。

それなりに若いときは、これでも、なんとか大丈夫だったかもしれません。しかし、高齢者の場合は、こうしたラフな薬との付き合いは、とても危険です。高齢者の薬との付き合いを、まだ若い自分と同じようにしてしまうと、大きなトラブルになることもあるのです。

高齢者は、薬の副作用が起こりやすい

一般的に、口から摂取されたものは消化器系で消化され、吸収されます。吸収されたものは、肝臓で分解されて、全身をめぐります。そして、不要な老廃物は、腎臓でろ過されて、体外に排出されます。

こうした体の基本的な機能は、加齢とともに衰えていきます。上手に消化されなかったり、吸収が遅れたり、分解がうまくいかなかったり、全身に運ばれなかったり、不要なものも排出されなかったりと、高齢者は、基本的な機能にも、様々な問題を抱えます。結果として、薬を飲んでも、その効果が現れなかったり、逆に、強すぎる効果が出てしまったりもします。

とくに、分解や排出が遅れて、いつまでも薬の成分が体内に滞留してしまい、効果が不必要に継続されるケースが危険です。薬が体内に長く滞留すると、高齢者は複数の薬を飲むことも普通なので、飲み合わせの悪い薬同士が反応してしまい、思わぬ副作用にもつながります。

高齢者が、若い自分と同じように、ラフな薬との付き合いをすると、症状が悪化したり、場合によっては命の危険にもつながってしまいます。結果として、家族にとっての介護の負担は、薬によって減るどころか、かえって増えてしまうこともあるのです。

そして、高齢者その人も、過去の若い時代のように、ラフな薬との付き合いを、そのまま行っていたりします。しかし、繰り返しになりますが、薬との付き合い方は、加齢とともに、難しいものになっていくのです。この点については、本当に注意が必要です。

ベテランの介護職に聞いてみました

高齢者になると、認知症など様々な理由によって、高齢者が自ら薬の管理をすることが難しくなっていきます。現実には、同居する家族が、高齢者の薬の管理を担っていることも珍しくありません。そこで、家族が高齢者の薬を管理する上で、注意したほうがよいことを、ベテランの介護職に聞いてみました。

1. 病気の対症療法はとても怖いことを理解しておきたい

頭痛があったら、病院で鎮痛剤を処方してもらいたくなります。痛いのですから、鎮痛剤が欲しいのは当然でしょう。とくに痛みをともなう病気の場合、私たちは、痛みを和らげることを目的とした薬を求めるものです。

これが、認知症の高齢者が夜、寝つけなくて暴れる、という症状だったとしましょう。家族は医師に「眠れない」「暴れる」という症状を伝えます。そうすると、睡眠薬や精神安定剤が処方されたりします。

しかし、その結果として、今度は昼夜問わず眠くなってしまい、飲食すらままならない状態になってしまうことがあります。そこで「眠気が強くてご飯も食べられません」と症状を伝えると、向精神薬などが処方されます。

こうした、病気の根本原因ではなく、現れている症状を軽減する治療のことをとくに対症療法と言います。こうした対症療法に従って薬をもらい続けると、飲み薬の種類が10種類を超えてしまったりもします。すると、もともとなかったような症状まで出てきてしまうことも多いのです。これはまさしく薬による副作用であり、強い言葉でいうなら薬害です。

2. 本当の原因をつきとめる努力をしてほしい

とくに高齢者の場合は、自然治癒力も落ちていますから、対症療法は危険です。誰もが知っていることだとは思いますが、病気になったら、表面的な症状ではなくて、その症状を生み出している根本的な原因を理解する必要があります。

若いときも、本当は、根本的な原因の理解が大切です。目が悪くなったから、メガネを買っておけばよいという生き方では、失明してしまうかもしれません(目が悪くなっているのは、緑内障や白内障が根本原因かもしれないからです)。

高齢者の場合、たとえば、夜間寝られなくて暴れてしまうようなケースの根本原因が便秘にあって、それが不快だから暴れてしまうということも多いようです。そうすると、必要なのは睡眠薬ではなくて、下剤だったり、食事を流動食に変えることかもしれないのです。

3. プロと協力して記録をつけるようにしてもらいたい

病気の本当の原因を突き止めるには、専門の医師による検査がまずは大切です。同時に、実は、日常生活の記録からわかることも多いのです。先の便秘の例であれば、ここ一週間の排便状況を調べれば、一発だったりもします。

高齢者に認知症がある場合は、本人による自分自身の観察が難しくなります。このため、病気の本当の原因を突き止めるのは、高齢者である本人以外の周囲の人間ということになるでしょう。

このとき、頼りになるのが、その高齢者と付き合いのある介護職による記録です。デイサービスやショートステイなど、比較的長い時間、その高齢者を見てくれているプロに記録をお願いして、その記録をもって医師に相談すれば、より適切な薬の処方が期待できます。

忘れられがちですが、医師は科学者です。科学者にとって重要なのは、主観的な意見よりも、客観的な事実です。家族の意見しかない場合の処方よりも、プロによって記録されたデータがあるほうが、より正しい処方ができるのも当然のことなのです。

きちんとした服薬管理ができている状態とは?

数ミリ単位で、薬の量を調節することも、介護生活ではよくあることです。そして、そうした調整の結果、症状がどのように変化したのかについて、プロの介護職と連携して記録をつけてください。

こうした日々の記録を、かかりつけの医師とも共有しましょう。それでも、対症療法しかしてくれない医師からは、距離を置くべきです。きちんとした医師は、プロの介護職に相談すれば、いくらでも紹介してくれます。

高齢者との介護生活において、薬の管理はとても重要です。今まさに困っている高齢者の症状は、実は、薬から引き起こされているものかもしれません。介護をとおして、安易でラフな我流の管理ではなくて、きちんとした薬の管理について学びましょう。

これが結果として、自分自身の服薬管理の能力を高めていくことになるのです。ラフな薬との付き合いでもなんとかなるのは、健康なときだけです。いつかは、私たちにも、本当に大きな病気に見舞われる日がきます。そのときになってやっと、ラフな薬との付き合いを後悔しても遅いのです。

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