閉じる

【経営者・人事部向け】企業内にこそ、介護者コミュニティー(家族会)を設置するべき5つの理由

企業内における介護者コミュニティー

「家族会」とは「セルフヘルプ・グループ」である

介護をする家族が集う「家族会」に、高い効果があることは、広く知られています。ですから、介護を一人で抱え込んでいるという実感が強い介護者(家族)は、どこかの「家族会」に所属することを検討すべきです。

介護をする家族に限らず、共通する困難に直面している人々が集まり、お互いの体験を共有したり、困難を乗り越えるためのノウハウを共有したりする集団のことを、特に「セルフヘルプ・グループ(self help group)」と言います。「家族会」も、学術的には、介護をする家族のための「セルフヘルプ・グループ」の形態の1つに位置付けられます。

「セルフヘルプ・グループ」の運営においては、あえて専門家の介入を少なくすることで、参加者に「対等な関係」を生み出すことが重要とされます。その上で(1)気持ちの共有;ネガティブな感情を吐き出すことで発散させる(2)情報の共有;有用な情報を一緒に探して高め合う(3)考え方の共有;困難を乗り越えるためのノウハウを教えあう、といったことが実行されます。

介護における「セルフヘルプ・グループ」には、要介護者とその家族が一緒に参加するものもあれば、要介護者だけ、または介護を担う家族だけが参加するものもあります。今回の話は、介護を担う従業員だけが参加する「セルフヘルプ・グループ」に焦点を当てています。

企業内にこそ、介護者コミュニティーを設置すべき5つの理由

企業としては、介護をしている従業員が、一般の「家族会」に所属しているかどうかは確認する必要があります。企業内の介護相談窓口が、従業員の置かれている状況に合った「家族会」を紹介することは、従業員にとって有益なアドバイスになりえます。

介護離職を防止するためにも、介護をする従業員に対して、こうしたアドバイスをしていくことも重要です。KAIGO LAB としては、さらに、こうした「家族会」を企業内に設置することを強くオススメします。その理由を、以下に5つ、まとめてみます。

理由1. 同じ会社における「仕事と介護の両立」というテーマが設定できる

「仕事と介護の両立」をするために役立つ、その会社特有のノウハウ(社内の制度、両立しやすい部署の情報など)を共有することは、社外の「家族会」では絶対に設定できないテーマです。しかも、このテーマは、おそらく、介護をする従業員にとって最も重要なものです。上手な介護をするための知識も大事ですが、介護ができるのは、お金という先立つものがあってのことです。そのお金を得るためには、仕事をしなければなりません。仕事あっての介護なのです。

理由2. 会社に対して、両立に役立つ制度を提案できる

社内の介護者コミュニティーのアウトプットとして「会社への提案」を設定するとよいでしょう。これも、社外の「家族会」では実行できないことです。社内にあるからこそ、その会社の介護支援制度について、いろいろなフィードバックをすることができます。ここから、介護支援制度の不備や、より優れた制度のありかたが見えてきます。自分たちが活用する介護支援制度を、自分たちで作り上げるというミッションがあればこそ、介護者コミュニティーも活性化します。労働条件に関することなので「組合」の管轄にしてもよいかもしれません。

理由3. コストをかけずに、介護離職の防止ができる

社内の介護者コミュニティーは、基本的に、自主的な運営となります。会社の会議室や各種備品(ホワイトボード、プロジェクター、コピー機など)を利用してよいことにすれば、従業員からしても運営コストをほとんどゼロにすることも可能です。また、新たに介護がはじまった従業員は、初期段階では特にパニックになり、パニックシューティングが必要になります。この部分を、社内の介護コミュニティーにも手伝ってもらうことも可能でしょう。結果として、社内の介護コミュニティーの存在自体が、介護離職を防止していくことに貢献できます。

理由4. 社内における介護問題の啓蒙をお願いできる

介護に関する研修は絶対に必要です。特に、介護保険に加入する40歳時点、親の介護がはじまりやすい50歳時点、そして実際に介護がスタートした時点での研修は、最低限必要です。こうした研修の場では、会社の制度や、国の介護保険制度などの説明が行われます。しかし、ここの説明は、情報の羅列になりがちで、あまり頭に入ってこないものになってしまうのが普通です。この場に、今まさに仕事と介護を両立している従業員に来てもらい、実体験を話してもらうのは、非常に有効です。具体的な質問に回答できるのは、人事部員よりもむしろ、こうした従業員のほうです。この役割を、社内の介護者コミュニティーに任せ、また、介護をすることになったら、この介護者コミュニティーに頼れるという事実を示しておくことは大事です。

理由5. 組織の活性化にもつながる

社内の介護者コミュニティーは、介護に関する知識やノウハウをシェアすることが目的ではあります。しかし、ここで育まれるのは、介護をする従業員同士の結束です。結果として、彼・彼女らは、仲良くなっていきます。すると、普段の仕事にもよい影響が見られるようになっていくはずです。介護者コミュニティーに所属している従業員は、お互いを「社内人脈」として認識するようにもなるでしょう。介護について助け合い、励まし合ううちに、仕事においても助け合い、励まし合うようになっていくのです。介護は苦しいことですが、仕事も苦しいものです。「この人たちと一緒なら、苦しみも乗り越えることができる」という空気が生まれることは、経営にとって大事なことでしょう。

人事部(総務部)は「セルフヘルプ・クリアリングハウス」になるべき

介護者コミュニティーは「セルフヘルプ・グループ」です。この「セルフヘルプ・グループ」の成功には、外部からの支援も大切です。グループの運用は、当事者に任せていくことが大事ですが、全てを独自運用に任せてしまうと、ただでさえ介護で大変な従業員に、余計な負荷をかけることにもなりかねません。

こうした支援のあり方としては「セルフヘルプ・クリアリングハウス(Self-Help Clearinghouse)」を意識する必要があります。「セルフヘルプ・クリアリングハウス」は、グループ運営に対する相談を受け付けたり、必要に応じて援助をする存在です。これが、人事部(総務部)の役割となります。

具体的には、メーリングリスト・社内SNSグループ作成、運営予算の確保、会議室の手配、要望に合わせた講師・ファシリテーターの手配、介護施設などの見学会手配、社内広報の支援、新年会・忘年会などの手配、欠席者への議事録の送付など、介護に追われる従業員にとっては「面倒なこと」を巻き取ってあげるのが仕事となるでしょう。

※参考文献
・渡辺道代, 『介護家族会の活動に期待される役割と可能性;若年認知症の先駆的な家族会調査から』, 盛岡大学短期大学部紀要 19, 53-61, 2009-06
・本間利通, 『セルフヘルプ・グループの特性』, 流通科学大学論集, 経済・経営情報編(2009年)
・谷本千恵, 『セルフヘルプ・グループ(SHG)の概念と援助効果に関する文献検討-看護職は SHG とどう関わるか-』, 石川看護雑誌 Ishikawa Journal of Nursing Vol.1, 2004

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由