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仕事と介護の両立は、本人のみならず、現役世代に介護保険の財源を依存する日本全体にとっても、重要なことです。この両立について、どういう条件があれば、従業員が「両立しやすい」と感じるかを調査(サンプル数:594人)した論文があります(細見, 2014)。
以下、この調査で明らかになった、仕事と介護を両立させるために職場に求められる3つの要素を「両立の3要素」としてピックアップします。記述は、KAIGO LAB にて追記・修正しているので、気になる場合は、参考文献からもとの論文を参照してください。
「分権的な職場(仕事の中でものごとを決められる権限が分散されている職場)」では、仕事と介護の両立がしやすいと感じられることがわかりました。逆に「集権的な職場(一部の権力者にものごとの決定権限が集中している職場)」では、従業員は、決められた仕事を決められた通りに進めなくてはならないため、介護負担の上下によって仕事を調整することができず、仕事と介護の両立がしにくいことがわかりました。
自分の業務が、自分のところで完結することができて、同僚の仕事と独立しているような「相互依存性の低い業務」をしていると、仕事と介護の両立がしやすいことがわかりました。逆に、自分の仕事が終わらなければ、同僚の仕事も終わらないような「相互依存性の高い業務」では、同僚に気遣って、なかなか自由に仕事の速度を調整することができません。結果として、急な介護対応などがしにくくなり、仕事と介護の両立は難しくなります。
目標は与えられていたとしても、それを達成するための中身については自由にしてよいような「職務自由度の高い職務」では、必要なときに自由に休みを設定することができるため、仕事と介護の両立がしやすいことがわかりました。逆に、仕事の進め方まで細かく決められているような「職務自由度の低い職務」では、これが難しくなります。
この研究からわかることは、権限が与えられていて、一人で完結できて、自由に仕事の中身をアレンジできるような仕事であれば、仕事と介護の両立がやりやすいということです。
これは、結局のところ「優秀なマネージャー」であれば、仕事と介護の両立が可能ということです。「優秀なマネージャー」には、権限が与えられます。また「優秀なマネージャー」は、一般的な仕事は部下に割り振っており、自分は、戦略の立案などの一人で完結できる業務に集中しています。そして「優秀なマネージャー」の場合、経営層から高い目標が与えられてはいても、その中身については、任されているでしょう。
介護を上手にこなすには、要介護者の要介護度を高めないように介護サービスを使いながら、介護に使えるリソース(お金や親族の連携など)を整えることが求められます。これもまた「優秀なマネージャー」が得意とするところです。
ビジネスにおいて「優秀なマネージャー」を育成していくことが、そのまま、仕事と介護の両立を可能にさせるという事実は、多くの経営者を安心させるでしょう。なぜなら「優秀なマネージャー」を多数生み出すような優れた経営をしていれば、介護離職に怯える必要がないということだからです。
一般従業員に対しても、介護教育のみならず、マネジメント教育を強化していくことで、長期的には介護離職を減らしていけるわけです。同時に、まだマネージャーになっていない一般従業員に対しては、介護がはじまった場合「両立の3要素」に合致するような職務に配属することが求められます。
そうした職務があれば問題ありませんが、たとえばメーカーの製造現場のような職場では、自己完結できる工程は少ないため、そもそも仕事と介護の両立が難しくなります。経営者としては、自社内のどの仕事が、介護をしながら遂行することが難しいのか、早急に確認する必要があるでしょう。それに応じて、介護が必要となった従業員を異動させないとならないケースもあるからです。
※参考文献
・細見正樹, 『仕事と介護を両立しやすい職場の特徴について : 集権性,相互依存性,職務自由度に着目して』, 経営行動科学学会年次大会 : 発表論文集 (17), 218-223, 2014-11-08
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