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介護離職への対応が、企業の人事部門でホットになってきています。これまで、法定の介護休業制度と基本的な研修程度にとどまっていた介護をする従業員の支援が、少しずつですが、拡大・拡張の方向に進みつつあるようです。
健康経営という側面や、税務対策にもなる団体保険など、周辺事業者による介護離職防止につながるプロダクトも増えてきています。特に大企業の人事部門は、そうした個々のプロダクトを評価し、比較するという作業に入ってきています。
ただ、人事部門の人材としても、介護についての理解を進めるのは大変です。個人的に介護の経験があったとしても、介護は個別性が高く、自分の経験が、そのまま他の人に当てはまるわけでもないからです。
今回は、そんな人事部門の人材のために、介護離職防止という文脈で起こりやすい3つの誤解について、簡単にまとめてみます。このあたりの認識を持った上で、施策やプロダクトの評価をするときの評価軸を考えてみることが大事だと思っています。
人事部門の目線から考えたとき、従業員の介護問題は、介護離職の数字をゼロにするという問題ではありません。そうではなくて、仕事と介護の両立に苦しむ従業員とのエンゲージメントを高めるという問題なのです。
従業員は、仕事と介護の両立に限らず、エンゲージメントが低下すれば離職します。そして介護は、このエンゲージメントに大きな影響を与える重大なライフ・イベントの一つです。人事部門には、従業員の介護問題への対応を通して、従業員とのエンゲージメントを高めるという意識が求められます。
介護離職に至らないまでも、仕事と介護の両立に悩む従業員は、今後、爆発的に増えていきます。そうした従業員の介護問題に寄り添い、介護をしながらでも前向きなキャリアを考えていけるような、そうした対応が必要なのです。
そもそも、介護離職をする従業員は、離職する前までに、かなりの程度、仕事を休みます。逆に言えば、仕事を休まないで介護できている従業員は、離職する可能性が相対的に低くなるのです。ゴールは「仕事を休まないで介護もできること」であって「休みやすい職場」ではありません。
具体的に整備すべきなのは、フレキシブルな出勤・退勤が認められる制度と、必要に応じてリモートワークもできる環境づくりです。それが整備された上で「休みやすい職場」という話になってくることは、非常に重要なポイントです。
とにかく、介護のたびに休まなくてはならないようでは、仕事は続けられないのは自明のことでしょう。時に、従業員の介護休業制度の利用率を高めようとする人事部門もあるようですが、むしろ、この利用率が低いまま、仕事と介護の両立に成功している従業員の数を増やすほうが重要です。
従業員の親などに介護が必要となった場合、団体保険経由で福利厚生として一時金を出したり、交通費の一部を支援したりする制度は、非常にありがたいものです。しかし、介護の負担を決めるのは、こうしたお金の問題だけではありません。
介護は誰にでもできる仕事ではありません。高度な専門性と、幅広い知識が求められる、かなり難易度の高い仕事です。たとえ金銭的には充足していたとしても、そうした専門性や知識を持たない人の介護は、大きな負担となり、エンゲージメントの低下も避けられません。
本当に介護の負担を下げるために必要なのは、そうした専門性や知識を持っている人との人脈です。仕事と介護の両立に苦しむ従業員が、介護の専門職の名刺を何枚持っているかが、とても重要な指標なのです。そのためには、介護の専門職と出会える場づくりが必要です。
介護施策を考える上では、現在介護をしていたり、かつて介護をしながら仕事をしていた従業員と向き合うことこそ、保守本流の態度でしょう。そうした従業員には、施策の企画アドバイザーとして、また、他の従業員のメンターとして動いてもらえたら、非常に心強いはずです。
ただ、注意したいのは、数年介護をしているというだけでは、複雑で個別性の高い介護全体について理解していることにはならないという点です。また、介護支援ニーズは、その多くが潜在的なもので、顕在化しているものはほんの一部であるという認識も大事です。
理想的には、仕事と介護の両立に苦しむ従業員による、社内の家族会を運営できたらよいでしょう。究極的には、フィレキシブルな勤務ができる環境と家族会があれば、あとは個々の人脈の問題に帰着させられるというのが、この問題の大局観です。
人事部門としては、従業員の介護問題は、これから20〜30年という単位で必要になる仕事であり、腕の見せ所(差別化要因)です。この分野での専門性を高めることは、人事パーソンとしてのキャリアにも、ポジティブに影響すると考えられます。人事業界全体で頑張っていければと思います。
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