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長時間労働の規制について、考えておきたいこと

長時間労働の規制について、考えておきたいこと

日本における長時間労働の問題

日本における長時間労働は、病的な状態です。これが原因で、精神的に折れてしまうケースや、最悪は過労死に至ることも、日本ではよくある話になってしまっています。こうした状況を改善すべく、長時間労働を厳しく規制していく流れが、やっとできてきました。

実は、長時間労働がなくなると、子供の出生率が上がったり、経済もよくなるという予測が複数あります。自分の自由になる時間が増えれば、家族ですごしたり、買い物を楽しんだりすることにつながるからです。

これは素晴らしいことです。どうしてもっと早く、こうした長時間労働の規制を強めてこなかったのか、不思議なくらいです。仕事と介護の両立という側面からも、労働時間が短くなることは、とてもよいことです。介護離職も減るでしょう。

長時間労働の解消から取り残される人々もいる

国が、長時間労働を厳しく取り締まることは、多くの人にとってメリットがあります。しかし、世の中には、この流れから取り残される人々もでてきてしまいます。その点についても、なんらかの配慮が必要になってきます。

1. 医療業界の人々の長時間労働

医師は、全体の3割もが、過労死レベルの労働をしていると言われます。夜中であっても、急患がいれば、それに対応しなければなりません。看護師もまた、過労死の問題がつきまとう職種です。今の日本の医療業界は、そもそも長時間労働がないと、患者が死んでしまうという状況にあるのです。ここに対しては、医師や看護師を増やしていく必要があるはずです。しかし、社会福祉の財源が枯渇してきている今、それも難しい状況にあります。

2. 介護業界の人々の長時間労働

介護業界でも、人手不足による長時間労働が横行しています。日本の介護業界もまた、そもそも長時間労働がなければ、要介護者が死んでしまう危険性のある状況にあります。なんとか、介護業界で働く人材を増やさないと、長時間労働はなくならないのです。介護業界に人材が集まらないのは、全産業平均よりも年収ベースで100万円以上も安いという悪い待遇が原因です。この待遇を改善するためには、社会福祉の財源を確保しないとならないのですが、これが厳しいというのが現実です。

3. 経営者たちの長時間労働

厳しくなる長時間労働への規制によって、従業員の労働時間は減るでしょう。しかし、仕事そのものは減らないので、その分だけ、経営者が長時間労働をするようになります。経営者だから当然という意見もあるでしょう。しかし、経営者が過労死してしまえば、その会社は倒産してしまいます。すると、従業員も困るでしょう。また、そういう環境では、起業家も少なくなってしまいます。長時間労働をなくした会社には、その分だけ、別の従業員を雇えるようなサポートも必要です。

4. 中央省庁の人々の長時間労働

長時間労働に対して厳しい規制をかける役人もまた、実は、長時間労働をしています。民間企業に対しては、厳しい罰則を適用しながら、自分たちに対してはそれを行わないというのは不公平です。かといって、国際的な事件に巻き込まれた日本人の救援活動をする外務省の仕事などは、長時間労働になるからといって、やめるわけには行きません。中央省庁では、こうした様々なトラブル対応などに追われていることが多く、長時間労働を回避するのが難しいケースも少なくありません。

5. 働きたい人の長時間労働

自分の仕事が好きで、もっと働いていたいということもあります。クリエイター、研究者や立ち上げ期にあるベンチャーの従業員などには、こうした人も多くいます。ただ、ここの議論が難しいのは、それが評価につながってしまうことです。長時間労働を好きでやれる人は、業績も出しやすく、結果として昇進もしやすい場合があります。しかし、そうなってしまうと、結局、みんなが(本当は嫌でも)長時間労働をするようになってしまうでしょう。働いていたい人のモチベーションをくじくことなく、長時間労働が評価されない状況にしないとなりません。

実質的な賃下げを回避するには副業の解禁が必要

長時間労働がなくなるということは、残業代もなくなるということです。そうなると、社会全体としては、実質的な賃下げが発生してしまいます。賃下げが起こると、景気も悪くなり、税収も下がってしまいます。

たしかに、所定の時間内で、残業していたころと同等の成果が出せれば、成果報酬によって賃下げを避けることが可能です。実際に、そうした人材も出てくるでしょう。

しかし、日本全体の労働力として考えた場合は、やはり成果は、労働時間に比例する場合のほうが多いはずです。労働時間と成果がまったく比例しないようなクリエイティブな仕事というのは、それほど多くはないはずだからです。

この賃下げを回避するには、個人がもっと副業で稼げるようにしていくしかないでしょう。インターネットがこれだけ普及している時代ですから、副業をはじめること自体は簡単です。副業から十分に稼げる人が増えれば、そこから起業家も生まれてきます。

残業がなくなっても、副業をしていたら、長時間労働はなくならないという指摘は、ごもっともです。ただ、誰かに雇われて行っている仕事と、自分の自由になる副業とでは、同じ労働時間でも、そこから受けるストレスはかなり異なります。

能力開発面でのネガティブな影響も無視できない

職務経験からの学びは、職務能力の開発にとって、とても大切です。そして労働時間が減るということは、職務経験も減るということを意味します。結果として、能力開発の進みが遅れてしまい、キャリアにとって悪い影響も生まれてしまうかもしれません。

これから、人工知能が台頭してきます。今後の日本が、人工知能に仕事を奪われる形での失業が起こりやすい社会になっていくことを考えると、能力開発の機会が減ってしまうことは、個々の人材にとっては、かなりのリスクとなります。

ですから、長時間労働がなくなることによって生まれる時間は、能力開発に投資されるべきです。ビジネス・スクールなどで経営学を学んだり、勉強のための副業をはじめたりといったことが、どうしても必要です。

しかし、こうした学習にはお金がかかります。そのお金に対して、なんらかの補助がなければ、ただ単に、失業しやすい労働者を多数生み出すことにもつながりかねません。ここはぜひ、国に考えてもらいたいところです。

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