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介護と子育てを同時に行なっている妻の支えかた(一之瀬幸生さん)

介護と子育てを同時に行なっている妻の支えかた(一之瀬幸生さん)

介護のはじまり

神奈川県在住、一之瀬幸生(いちのせ・さちお)さん(40代)は、奥さまと4歳になる娘さんと3人暮らしです。一之瀬さんは、介護系企業であるセントワークス株式会社で、ワーク・ライフバランスコンサルタントとして、企業や自治体に向けて研修やコンサルティングのお仕事をされています。また、一之瀬さんの奥さまは元看護師で現在は看護師資格を生かして医療機器メーカーにてフルタイムで勤務されています。

期待値管理

一之瀬さんのお義母さん(75歳)は、6年前に突然トイレに行けないくらいに体の痛みを訴えて動けなくなったそうです。救急車を要請し、腰椎圧迫骨折のため、そのまま入院して手術を行いました。

お義母さんは、入院する数年前から何回も同じことを発言することがあったといいます。しかし、入院してから環境の変化からか症状が一気に進行し、アルツハイマー型認知症であることが分かりました。

入院して3ヶ月が経過した頃、お義母さんの状態が落ち着き、リハビリを行うために神奈川県内で転院先を探したそうです。しかし、お義母さんが認知症の症状を有していたことから、転院を受け入れてくれる施設はなかったといいます。結局、お義母さんは退院後に自宅に戻りました。

義父による義母の介護

お義母さんは、お義父さんと義理の兄と3人暮らしをしていました。一之瀬さんの家族は、奥さまの実家から車で約30分のところに住んでいたそうです。自宅に戻ると慣れ親しんだ環境からか、一時的にお義母さんの認知症の症状は改善し、一人で過ごせる時間もあったといいます。

家族は、介護保険の申請を行い、要介護認定を受け、要介護の認定がおりました。当初は、義父がキーパンソンとなり、お義母さんの食事の支度や薬の内服のケアを行っていたそうです。しかし、徐々にお義母さんの認知症の症状は進行していきました。

例えば、オムツをトイレに流してしまう、飼い猫の糞を片付けようとしたのか手で掴んでしまう、洗濯物を干しても衣類が乾いていない状態で取り込んでしまうといった行動が増えたそうです。

一之瀬さんから見ても、義父は献身的に介護をしていたといいます。しかし、お義母さんの認知症が進行してきたことにより、義父の苛立ちは大きくなって行きました。そして義父は、次第にお義母さんに強く当たってしまうことが出てきたといいます。

義父は、介護者が集うような会への参加をしたことがなく、誰かに介護についての話をするというタイプではなかったそうです。誰かに話をすることで、気持ちが整理され、解決方法が見える場合はあるかとは思います。自宅のように閉鎖的な空間で、忍耐強く頑張ってしまう人の方が、大変なことにもなりやすいのです。

介護の負担が妊娠中の奥さまのところに

この頃より、一之瀬さんの奥さまの所に、お義母さんの担当のケアマネージャーから連絡がよく入るようになったそうです。父親の介護の負担が増えたことにより、いつの間にか奥様がキーパーソンの役割を担うようになっていったそうです。

一之瀬さんからみて、奥さまは当事者というより、看護師のキャリアを活かしたアドバイザー的な立場から、介護の責任者のようになってしまったそうです。そして奥さまによる義母の介護は、妊娠時期と重なりました。ご自分の身体のケアをしながら、フルタイムで働くだけでも大変なことなのに、です。

これに加えて、土日は実家に帰り、母親の介護に関わったり、平日も仕事後に実家に帰る日もあったそうです。その頃、以前より申し込んでいた特別養護老人ホームに、義母が入所できることが決まったそうです。この幸運によって、現在は、一之瀬さんの家族のダブルケアは落ち着いています。

しかし、お義父さんは80代と高齢であり、今後ケアが必要になる可能性は視野に入れていく必要があります。育児も特に大変な時期でもあるため、状況は落ち着いているとはいえ、いつまた介護に振り回されるかわかりません。

一之瀬さんは、ワーク・ライフバランスコンサルタントの立場から、職場だけでなく家庭も含めて男女の役割が公平になってこそ職場で女性が活躍しやすくなると語っていらっしゃいました。

一之瀬さんの選択から学べること

この一之瀬さんのケースでは、奥さまだけに育児、家事の負担が大きくならないように、育児短時間制度を利用し、育児を分担しているそうです。また、一之瀬さんは、夫婦で育児短時間勤務、もしくは定時で帰宅することができれば、夫婦のどちらか一方が仕事を辞めてしまうよりも良いと考えています。

例えばですが、夫婦共に正社員で働き続け、それぞれに350万円以上の年収が得られれば、世帯年収は700万円以上になります。ダブルインカムで働くことができれば、それだけ家計が安定します。そのために、男性も働き方や家庭内役割分担を公平にし、女性の負担を軽減していく必要性を語っていました。

また、一之瀬さんは、育児短時間勤務で働き始めて、以前にも増して、リスク管理や段取りを行うようになったそうです。また、突然仕事を休まなければならなくなった時のために、職場やお客様にも家庭の事情を開示していくことで、必要な体制を作っていくことを心がけているそうです。
 
ダブルケアに関しては、子育て費用と介護費用が重なるため、経済的な負担も重くのしかかります。ダブルケア世帯の平均年齢は39.6歳と、ちょうど働き盛りの世帯になります。普通の介護をしているつもりでも、実は、ダブルケアだったというケースも多数あります。

しかし、ダブルケアに関する行政の支援策は全国の自治体でも数カ所にとどまっています。子育てが終わるまでに3人に1人はダブルケアを経験するといわれているにも関わらず、ダブルケアの行政支援については確立されていないのが現状です。

共働きが当たり前になりつつある現代において、働き盛りの世代がどの様にすれば子育てや介護をしながら仕事を継続できるのか、社会全体で考えていく必要があります。ダブルケアは、女性にだけ起きる問題ではなく、男性も含めて社会での働き方の意識改革が解決の鍵になるのではないでしょうか。

参考文献:
相馬直子, 山下順子, 『ダブルケアに関する調査2018』, ソニー生命保険株式会社, 2018

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