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医療介護関係の仕事をされている湊貞行(みなと・さだゆき)さん(48歳)は、東京都在住で、奥さまと中学3年生の娘さんと三人暮らしです。約5年前、長崎で一人暮らしをしている母親(当時74歳)から突然SOSの電話がかかってきました。ここから湊さんの遠距離介護が始まりました。
それまで自分から電話することなどなかった母親から、突然の電話がありました。「助けて、足を骨折した」との連絡でした。湊さんは、電話口の向こうにいる母親の様子に違和感を感じたそうです。すぐに同じく関東に出てきている妹さんに連絡を取りました。
その日、妹さんが先に九州に飛び、湊さんは仕事を片付けてから、翌日九州入りをしています。母親の住むアパートに到着すると、部屋はゴミだらけで足の踏み場もない状態でした。先に電話で感じていた違和感には、十分な背景があったのです。
まずは母親の体の状態を確認しました。骨折や大きな怪我もなく、大病もないと判ったあと、次に湊さんが起こした行動は「現状をカメラに収める」ことでした。
医療介護関係で働く湊さんは、その場の状況を見て「母親には緊急で介護サービスが必要」と判断したそうです。
通常、介護サービスを受けようとする場合、介護保険の申請から始まり、サービス開始となるまでに約1ヶ月程度かかることが多いということを、湊さんは知っていました。ですが、そんなに待っている余裕はありません。湊さんも妹さんも遠く離れた関東での生活と仕事があり、とても長居はできないからです。
しかし母親をこのまま残して帰るわけにもいきません。しかも当時の母親は、身体的には大きな疾患があるわけでもありません。母親と面識のない地域包括支援センターの職員にも、介護の必要性と緊急性を理解してもらえるよう、撮影した写真による説明を行なったそうです。
そうした説明によって、地域包括支援センターも緊急性を理解してくれて、介護保険を速やかに利用できるように、暫定のケアプランの作成を行ってくれたそうです。母親は、湊さんが東京に戻った翌日から、在宅介護を受けることができるようになりました。
このように、介護が必要と思われる状況を写真に収めるなど、客観的な情報を相談窓口に速やかに報告し、支援を求める動きはとても参考になります。結局、母親は骨折はしていませんでしたが、違和感の通り、アルツハイマー型認知症の診断がおりました。
湊さんは、妹さんとともに、母親の担当のケアマネージャーと連携しながら、遠距離で在宅介護を継続するという決断をされました。湊さんが、なぜ東京と長崎の遠距離で在宅介護を決意したのかは、主に以下の3点がありました。
1. 関係の身近な家族だからこそ、人間関係が崩壊しない様に気をつける必要があったと判断した
2. 母親が転居することにより、母親の混乱や認知症の症状の進行といったリロケーションダメージを予防したかった
3. いつ終わるか分からない介護に多額のお金を投入し、長期的に介護が継続できない可能性を懸念し在宅での介護を選択した
湊さんは高校を卒業してから、実家のある長崎県には殆ど帰省をされていなかったそうです。そんな中、介護は突然始まりました。湊さんは、妻に介護を手伝ってもらうという選択肢はなかったと話されました。
母親のことを大事に思う気持ちは強くありました。同時に、長年見てきた母親の性格と、家族全体の関係性を含めて包括的に考えると、母親を引き取って同居する形での介護は、考えられなかったそうです。
何より母親が転居後に受ける不安やリスクが大きいことが問題と感じられました。また、東京ですでに生活基盤を持っているのですから、仕事を辞めて長崎に戻るという選択も容易ではありません。妹さんが引き取るか長崎に戻るということにも、メリットよりもデメリットの方が大きくなるという判断でした。
湊さんの母親の遠距離介護は突然始まりましたが、介護が始まって真っ先に突きつけられたのは「介護は終わりが見えない」ということでした。長期間にわたって介護が続くことを想定し、お金や時間の使い方も含めて、家族全員が無理をしない方法で介護を行なっていくことを中心に考えたそうです。
経済的な部分では、5年間の遠距離介護生活で、湊さんは100万円近く負担しており、自分と母親の貯金を切り崩しながら介護費用にあてているそうです。遠距離介護ですから、交通費もかかります。最安値の航空チケットを探したり、無駄な服薬はないかも調べたりするそうです。
介護が始まった最初の1〜2年目は、湊さんと妹と交代で2ヶ月おきに帰省していたそうですが、帰省するだけでもお金と時間がかかりますし、働けない分収入もマイナスになります。介護は「ゴールを設定されていないマラソンと似ている」と湊さんは語っていました。
介護環境が整った現在は、ケアマネージャーと密に連絡を取りながら、帰省するペースを4ヶ月に一度ほどのペースにして、無理をしないようにしているそうです。また湊さんは、介護費用の負担を軽減できるサービスも上手に使っているそうです。
例えば、オムツ代を一部負担してくれる制度や、介護保険の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、申請をするとお金が払い戻される制度である高額介護サービス支給制度を正しく利用されているそうです。こうした点は、各自治体によって支援内容は変わるので、それぞれに調べる必要があります。
介護の事例というと、厳しい状況になってしまっているケースが多いものです。そうした中で、厳しい中でもなんとか両立している湊さんの事例は、多くの人にとって希望になるのではないでしょうか。最後に、湊さんから遠距離介護を行なっている方や、これから遠距離介護をする方へのメッセージを以下に掲載します。
介護は、介護する対象にドンっと意識が向きがちです。ただそうなると疲れてしまい長く続けられません。ですから、自分の親や兄弟、妻子も含めた家族全体のことを考えて、長く平穏無事に過ごせる選択をして欲しいと思います。
当然、みんながそれぞれに我慢しなくちゃいけない部分もありますが、それぞれが幸せになるところを見つけていくことこそが大事だと思います。それぞれが自分にできることを、できる範囲でやると決断して関わった方が良いとも思います。遠距離介護に限らず、介護はいつ終わるかもわからないのですから。
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