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田中悠美子先生にお話を聞いてきました

田中悠美子先生にお話を聞いてきました

厚生労働省の推計値(2009年)によると、65歳未満で発症する若年性認知症の方は、約3万8千人います。平均発症年齢は、51.3歳と、働き盛りの世代です。一家の家計を支えている世代が病気になることにより、家庭における経済的問題や家族に与える影響は大きいといえるでしょう。

若年性認知症の親を助けるために、子ども世代が介護を担う事で学業や就労に支障がでるケースがあると社会問題として認識されつつあります。一般社団法人日本ケアラー連盟では、18歳未満の子どもを「ヤングケアラー(子どもケアラー)」、18歳以上からおおよそ30歳代までを「若者ケアラー」と定義しています。

今回は「若年認知症ねりまの会MARINE」の代表である田中悠美子先生に若年性認知症の子ども世代の実状や支援の必要性についてインタビューを行いました。田中先生は、立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科助教として「認知症本人と家族の地域生活支援」をテーマに研究にも取り組まれています。


田中先生のお話(インタビュー記事)

若年性認知症と向き合う子ども世代のつどい「まりねっこ」では、若年性認知症の親を持つヤングケアラーや若者ケアラーが集まり、情報交換や近況を語り合う場が定期的に開催されています。

若年性認知症の子ども世代は、親の病気や病状の進行について受け入れられるまでに、個人差はありますが辛い時期を過ごされるといいます。「まりねっこ」のメンバーの中からは、経験や悩みを共有できたことにより、精神的な支えの場になったという声が聞かれています。

親の介護については、同世代の友人には理解されにくく、閉塞感を抱く辛さがあるかと思います。田中先生は、若年性認知症の家族に対する心理的サポートに関しては、医療や福祉制度といったフォーマルな取り組み、または地域といったインフォーマルな取り組みを活用して提供していくことが、今後の課題であると感じているそうです。
 

介護と学業・仕事の両立の難しさについて

ヤングケアラーや若者ケアラーの声として、自分の時間を確保しながら学校生活や仕事を行いたいという希望が聞かれるそうです。田中先生は、そうした現場の声を集め、同じように親の介護で苦しむ人々の参考にすべく、活動されています。

例えば、ある若者ケアラーで派遣社員として働く女性のケースです。正社員となり収入の増加を目指したそうですが、若年性認知症の母親の主介護者であり、母親をデイサービスに送り出してから出勤し、夕方のお迎えまでに帰宅しなければなりませんでした。

そのため、勤務時間が限られてしまい、正社員としての勤務は難しいと判断されたそうです。主たる介護者か主たる介護者を支える副介護者かによって違いはあるかと思いますが、ヤングケアラーや若者ケアラーが介護者の一員としてケアプランが組まれているケースはあるそうです。

この若者ケアラーの女性のケースでは、ケアマネージャーに相談をされたそうですが、すぐには現状が変わらなかったそうです。その女性は、現状や思考を整理して想いを伝えることの難しさを感じたといいます。
 

ヤングケアラー、若者ケアラーに配慮すべき点

大学生を含めた20代前半までの学齢期では、学業や学校生活への影響が生じる可能性があるそうです。例えば、買い物や食事作り、身体介助を含む行為は家の手伝いの延長で行われているそうです。

そのこと自体は問題ではないのですが、結果的に友人との関係の中で孤立、アルバイトと学業の両立の困難、精神的な負担から昼夜逆転や不登校になるケースがあるといいます。そういった場合には、支援が必要となります。

ヤングケアラーの親は、介護や家事や仕事の両立のため多忙な状態にあり、時に子どもの変化に気付きにくいことがあるそうです。このことから、田中先生は、家庭の他にも学校の先生やケアマネージャー、親や近隣の人といった第三者の気づきや声かけが必要だといいます。

例えば、学校では18歳未満の子どもが宿題の提出が遅くなる、または出せないケースや身なりが整っていない等、子ども達の変化を察知してもらいたいそうです。子ども達の変化が、子ども自身の心の問題なのか、それとも家庭環境による変化なのか判断して頂き、子どもの認識や気持ちを確認した上で、必要な支援サービスにつなげていく必要があるといいます。

また、田中先生はヤングケアラーや若者ケアラーが、必要な情報や支援が、必要なタイミングで繋がることができる様な社会や仕組みが確立して欲しいと願っているそうです。そのために、子ども世代のケアラーが相談しやすい環境作りや想いを共有できる仕組みとしてSNSを活用し始められたそうです。

そして、全国のヤングケアラーや若者ケアラーが繋がれる仕組み作りを今後の目標に活動をしたいと想いを語ってくださいました。以下は、田中先生が運営しているヤングケアラー、若者ケアラーを対象とした、若年性認知症についての質問や相談ができるSNSとなります。

・LINE ID:marine-yyc。

若年性認知症についての情報や「まりねっこ」の活動状況の情報がアップされています。

・Instagramアカウント:marinekko.team

※参考文献
・田中悠美子(2018), 『「若年性認知症の親と向き合う子ども世代の生活課題について」まなびあい』, 立教大学コミュニティ福祉学会, 第11号p143-147
・厚生労働省(2009), 『若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について』, 厚生労働省
・澁谷智子(2018), 『ヤングケアラー−介護を担う子ども・若者の現実』, 中央公論新社

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