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凍結含浸法(とうけつがんしんほう)という介護食製造技術がある

凍結含浸法(とうけつがんしんほう)という介護食製造技術がある

広島県立食品工業技術センターによる発明

凍結含浸法(とうけつがんしんほう)という介護食製造技術があります。これは、広島県立食品工業技術センターによる2002年の発明(特開2003-284522)で、権利化は2005年とのことです。特許の期限切れ(有効期間を20年として)まで、あと数年という意味でも、注目されています。

広島県のホームページによれば、この凍結含浸法の権利は、広島県保有しています。これまでに、この技術を51社に対してライセンス供与し、そのうちの18社が、介護食としての商品化にまで漕ぎ着けているとのことです。なお、平成25年度には、中国地方発明表彰において、中国経済産業局長賞を受賞しています。

そもそも1つの発明が、これだけ多くの企業にライセンス供与され、実用化されることは珍しいものです。権利を持っているのが自治体であり、自分たちで生産する設備を持たないからこそ、技術が広まったと考えて良いでしょう。

同時に、この特許が期限切れとなれば、誰もが自由に利用できる技術になります。国内の食品メーカーはもちろん、海外の食品メーカーもまた自由に利用できるようになるため、競争は激化すると考えられます。消費者としては嬉しい話ですが、食品メーカーからすれば脅威でもあるでしょう。

凍結含浸法(とうけつがんしんほう)の簡単な説明

凍結含浸法(とうけつがんしんほう)は、食品の見た目は変化させないままに、食品の素材の中に、特定の酵素を急速に滲み込ませる技術です。酵素を選択することで、食品を柔かくすることはもちろん、必要な栄養素を増やすなど、様々な効果を生み出すことが可能です。

技術の内容としては、一度凍結させた食材を解凍し、酵素液に浸けたまま減圧するという、比較的単純なものです。手法は単純なのですが、細胞の隙間にある空気と酵素を一気に置換させるという方法で、食材の内部まで、急速に酵素液を浸透させることができます。

これは酵素でなくても構わず、調味料を浸透させることでより良い味を実現したり、特定の栄養素を直接付与することもできます。はじめから良い味と必要な栄養が含まれているニンジンや牛肉など、食材の形状は変化させないままに、様々な食材を柔らかく製造することが可能です。

介護食という領域を超えて、安い食材であっても味を付与することで、より美味しく作ることもできます。まずは介護食という領域からでしょうが、今後は、人類の食卓のあり方に変化をもたらす可能性もある技術です。こうした技術が日本から出てくることは、本当に嬉しいことです。

特許としてはどう読めるか

特許は、2つの請求項(権利が認められる範囲)でできています。2つのうちの1つは、もう1つの請求項に従属するものなので、ここでは無視するとして、その請求項の1は「生あるいは加熱した植物食品素材を凍結した後,解凍し,酵素液に浸漬して減圧下に放置することを特徴とする植物組織への酵素急速導入法。」と記載されています(特開2003-284522)。

比較的簡単な技術なので仕方のないことですが、まず、特許は「植物食品素材」に限定されています。肉や魚の製造においては、この特許は有効ではない可能性が高くなります。さらに浸す液体は「酵素液」に限定されています。栄養素や単なる味であれば、やはり、この特許は有効でなくなる可能性が高いでしょう。

とはいえ、栄養素や単なる味であると主張しても、そこにわずかでも酵素としての働きがあれば、この特許の範囲に含まれる可能性もあります。ただ、さらに気になるのは「減圧下に放置する」という部分です。「放置」ではなく、なんらかの作業を加えれば、この特許を回避できる可能性があるからです。

過去の技術では、植物食品素材を切断して表面積を大きくさせるか、または、酵素の濃度を高めて浸透圧を大きくさせるしかなかったようです。これらの方法では、酵素の浸透速度が遅くなってしまいます。しかし早めに切り上げると、酵素の浸透範囲が十分ではないことになるでしょう。

凍結させることで、組織内部の水分を凍らせます。それを解凍すれば、組織内部は構造的に柔らかくなるだけでなく、減圧させることで、その空間にある空気を引き出すと同時に、酵素液を浸透させることが可能です。技術の限定性はあるものの、意外とシンプルなだけに、それなりに強力な特許になっています。

※参考文献
・日本経済新聞, 『形そのまま軟らかく、広島発の技術で介護食を開発』, 2019年7月12日
・広島県, 『凍結含浸法の技術解説』, 2016年1月27日
・公開特許公報, 『植物組織への酵素急速導入法』, 2003年10月7日(公開日)

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