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拡大する介護食市場に、どう対応していくのか

拡大する介護食市場に、どう対応していくのか

潜在的な介護食市場の大きさについて

高齢者の単身無職世帯における出費のうち、最も大きいのは、食費(月額35,137円)です。2015年時点で、高齢者の世帯数は2,372万世帯ですから、少なくとも(2人世帯を単身世帯とカウントしても)毎月8,300億円ものお金が、高齢者世帯の食費として使われていることがわかります。年間にすれば約10兆円です。

もちろん、この全てが介護食の市場になる訳ではありません。ただ、要介護になる人は、65歳以上の約18%(年齢が上がるごとに増える)ですから、少なくとも、1.8兆円は、潜在的な介護食の市場として捉えても問題なさそうです。農林水産省による試算では、2.5兆円市場とも言われているので、だいたい、この規模感で正しいでしょう。

富士経済によれば、国内の介護食の市場は2017年には約1,600億円だったそうです(メーカー出荷ベース)。同社によれば、これが2025年には約2,000億円まで成長するとしています。ただ、潜在的には1.8兆円はありそうな市場で、2,000億円しか出荷されていないということは、少し不思議な気がします。

この市場開拓のどこが難しいのか

大きな介護施設であれば、B2Bでもありますから、メーカーは代理店などを使って営業をかけることができるでしょう。しかし、介護のほとんどは在宅で行われますし、今後も、在宅介護が増えていくことは間違いありません。そもそも施設介護から在宅介護に向けていくことは、国の方針でもあります。

在宅介護になっている高齢者のところに、どうやって、介護食を届けるのでしょう。通常の商品のように、スーパーやドラッグストアの棚においても、在宅介護をされている人は、そうした商店まで買い物に行けない(行けても頻度が少ない)可能性が高いわけです。

スーパーやドラッグストアにしても、来店頻度の少ない顧客のために、貴重な棚のスペースを使うわけにも行きません。そうなると、介護食の販売は、通販やネットということになりそうです。しかし、通販やネットでの購買は、今の高齢者の多くにとって、慣れ親しんだ方法でないことは明らかです。

未来は必ずやってくる

とはいうものの、この課題は、いずれは解決されていくことです。課題がはっきり見えているということと、テクノロジーはそうした課題を時間で解決していくものだからです。例えば、自動運転車が、そのまま移動コンビニのようになり、高齢者が多くいる地域などで移動販売をするような未来まで、あと10年程度だと考えられます。

高齢者は、介護が必要なくても、老化の影響で、食べ物を飲み込むこと(嚥下)に問題を抱えるものです。そうした問題は、介護食によって解決されるべきことでしょう。2020年には、高齢者が3,500万人を突破します。高齢者が3,500万人を超えている状態は、そこから40年続くのです。

この分野において、イノベーションが起こるまで、きっとあと少しです。介護食についての知見を溜め込んだ日本の食品メーカーは、そうした介護食にレバレッジをかけて、海外に飛躍していくこともできるようになります。私たちも、なんとかして、それが少しでも近い未来で起こることに貢献していきたいと考えています。

※参考文献
・日本経済新聞, 『高齢者向け介護食に彩り 食品各社、在宅用普及に動く』, 2019年5月14日
・シニアガイド, 『高齢単身無職世帯の毎月の支出は「156,374円」』, 2016年7月19日

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