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介護食市場2.5兆円の争奪戦がはじまっている(アサヒグループ食品が110億円の設備投資)

介護食市場2.5兆円の争奪戦がはじまっている(アサヒグループ食品が110億円の設備投資)

介護食市場2.5兆円の争奪戦がはじまっている

農林水産省の試算によれば2.5兆円とも言われるのが、介護食(広い意味での高齢者食)の市場です。この市場には、かなり前から多くの企業が参入しているのですが、まだまだ、開拓が進んでいないのが現状です。

そうした中、アサヒグループ食品が開いた事業方針説明会で、この分野に対して3年間で110億円という大型の設備投資をすることを示しました。以下、日本経済新聞の記事(2018年2月22日)より、一部引用します。

アサヒグループ食品は22日、介護食「バランス献立」シリーズから、栄養補給飲料「栄養プラス」を3月6日に発売すると発表した。すっきりした味にして継続的に飲んでもらうことで、不足しがちな栄養素を補えることをアピールする。(中略)

同日開いた2018年の事業方針説明会で、20年までの3年間で110億円の設備投資を計画していることも明らかにした。岡山工場(岡山県里庄町)では凍結乾燥機の釜などを増やし、フリーズドライ製品の生産能力を3割引き上げる。

そのうえで、18年には売上高で17年比で微増の1263億円、事業利益で5%増の117億円をめざす。尚山勝男社長は「少子高齢化など環境の変化が加速している。おいしさと付加価値を提供し、さらなる成長をめざす」と語った。(後略)

この市場のなにが難しいのか

介護食の市場は大きいのに、各社なかなか、シェアが取れないでいます。その原因はいくつかあるのですが、根本的には、事業の開発に「高齢者の日常を経験している人」が少ないことが挙げられます。要するに、高齢者の本当の気持ちを理解するのが困難なのです。

たとえば、よく失敗するのに新規参入の絶えない事例としては、高齢者向けのフリーペーパーというビジネスモデルがあります。本来、フリーペーパーというのは、無料の情報誌を配りながら読者を増やし、発行部数に応じて、広告収入を得るというビジネスモデルです。

しかし、そこで発信される情報の多くが、高齢者ではない人によって作成されています。ですから、高齢者の読者を獲得する段階で失敗することが多く、広告収入も思っていたほど伸びないケースが後を絶たないのです。

これに対して子供向けの商品の場合は、事業を開発する人々は、過去に「子供の日常を経験している人」ばかりです。その経験から、こういう物があればよかった、ああいう物は嫌だったといった、それぞれの意見も出てきやすいでしょう。

こうしたことから考えると、事業の開発に対してどれだけ高齢者を巻き込むことができるかが、シェア争いを制する鍵になるはずです。特に頭の良い人ほど、わかったつもりになってしまうため、注意が必要だと思われます。

予想される今後の動きについて

これから予想されるのは、高齢者の顧客が多い外食チェーンを展開するところと、食品メーカーの協業です。外食チェーンには、高齢者が実際になにを選ぶのかに関するデータを持っているからです。このデータは、食品メーカーにとっては、是が非でも手に入れたいものでしょう。

逆に、食品メーカーはうまくやらないと、外食チェーンに交渉力を取られてしまいます。外食チェーンは、当然のように配食への参入をしていたり、検討しています。そこで高齢者とのチャネルを取られてしまうと、食品メーカーは、外食チェーンに頭があがらなくなってしまいます。

食品メーカーの戦略としては、高齢者の日常に取り入れられる1品を生み出すことが大事になるでしょう。その1品からしか、外食チェーンに対する交渉力は生まれないからです。高齢者が好む1品ができれば、外食チェーンとしても、その食品(ノウハウ)をメニューに加えたい気持ちにもなるからです。

食品メーカーや外食チェーンなど、とにかく、介護食の市場はプレイヤーが入り乱れてのシェア争奪戦になっています。食品の提供側にとっては、チャンスとはいえ、大変でしょう。しかし、高齢者にとっては、様々な提案が楽しめる時代が到来しつつあることを示しており、歓迎したいところです。

※参考文献
・日本経済新聞, 『アサヒグループ食品、介護食を拡充 3年で110億円投資』, 2018年2月22日

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