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徳島県の神山町(かみやまちょう)といえば、ITの世界では広く知られている場所です。大学の研究室やインターネット企業が、こぞってサテライト・オフィスを開設しているからです。特許事務所のサテライト・オフィスまであり、イノベーションに必要なものはそろっています。
神山町には、自治体の政策として、光ファイバーによる高速のインターネット環境が整備されています。実際に神山町では、都市部よりもずっとインターネットが快適に使えます。このため、神山町には、大自然での生活を楽しみながら、キャリアアップも目指す人々が、多数移住しているのです。
神山町は、過去50年間で、人口が約3分の1に激減してしまいました。しかし、こうした環境を整備したことで、2012年1月には、町から出ていく人(転出)に対して、町に移住してくる人(転入)のほうが多い状況(社会動態人口が12名増えた)を達成しています。
神山町は、過疎化にあらがうことなく、都市部からクリエイティブな若手を誘致しようとしています。過疎地でありながらも、健全な人口バランスを目指し、多様な産業を育てようとしているのです。この活動はとくに「創造的過疎」というキーワードで知られており、過疎化が進む日本中の地域から注目されています。
そんな神山町で、介護の分野でも1つ、イノベーションが起ころうとしています。このイノベーションは、神山町のような人口バランスと、多様な産業への意志がなければ生まれなかったものであり、注目に値するものです。以下、徳島新聞の記事(2017年3月10日)より、一部引用します。
神山町で、独居高齢者らに弁当を届けるとともに家事などを手伝う有償見守りサービスの準備が進んでいる。企画したのは東京と徳島市の会社で、1月から2月にかけて実施した実証実験では反応が上々だったという。5月にもスタートさせる。料金は未定。
「tomos(ともす)」プロジェクトと銘打ち、東京のマルシェ運営会社・代官山ワークスと、徳島市の人材育成会社・リレイションが企画した。計画では、町内の飲食業者に委託して魚、肉、野菜をそれぞれ中心とした3種類の弁当を用意し、宅配を行う。
家事支援は、電球の交換やごみ出し、家具の移動などの内容を想定。利用者に困り事や要望を聞き、午後に弁当箱を回収する際に手伝う。また、利用者の顔色や食べ残しなどで体調を把握し、異変があれば町地域包括支援センターに知らせる。(後略)
ただの配食事業ではありません。まず、東京レベルでのマルシェ(イベント的に設置される市場)の運営ノウハウが背景にあります。かっこよくて、明るい気持ちになる場のデザインは、なかなか地方では見られないものでしょう(最近増えてきてはいますが)。
大人がなにかを考えるとき、かっこよさというのは、犠牲にされることが多いように思います。なにごとも中身が大事であって、見栄えのようなものは二の次だというのは、あたかも真実のように聞こえるものです。
しかし、生物にとって、かっこいいということは、非常に重要なことです。人間の、かっこよくありたいという気持ちもまた、本能だと考えられます。神山町の古民家を改装したサテライト・オフィスの画像を見れば明らかですが、なによりも、かっこよさを大切にしてデザインされている点には、注目しないとなりません。
高齢者として、自分ではできることが減り、配食を利用しなければならい立場になったとします。そんなときでも、私たち人間は、かっこよくありたいと願います。運ばれてくる弁当のパッケージひとつとっても、その細部にわたってかっこよくデザインされていることは、とても大事なことなのです。
デザインには、動かないモノのデザインだけでなく、動きのあるコトのデザイン(インタラクションデザイン)もあります。この議論を一歩すすめて考えるなら、疲弊していく地域に必要なのは、かっこよく生きられる場のデザインなのです。
俗説ではあるものの「プロポーズできる場所がない地方は衰退する」という意見には、深い真実が隠れています。かっこよさとは、決して二の次にしてよい話ではなくて、私たち人間の根源につながる欲求であるという認識が求められます。
※参考文献
・総務省, 『働き方の変化(テレワーク)を活用した地方創生』, 2016年12月
・徳島新聞, 『神山の高齢者支援へ見守り事業 東京と徳島市の会社』, 2017年3月10日
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