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厚生労働省の研究班が「摂食嚥下関連医療資源マップ」というサイトをオープンしています。例によって、格調の高い名前になっているため、一般人からすれば何を研究しているかわからない感じはします。ただ、その中身は、非常に有用なものになる可能性があります。
摂食嚥下(せっしょくえんげ)とは、食べ物を、口から食べて飲み込んで、胃にまで送り届ける一連のプロセスのことを指した言葉です。ですからこれは、食べる力が失われつつある高齢者などが支援を受けられる地域体制の構築に関するプロジェクトなのです。NHK NEWS WEBの記事(2017年2月5日)より、以下、一部引用します。
食べ物をかんだり飲み込んだりする力が弱くなったお年寄りにも外食を楽しんでもらおうと、厚生労働省の研究班が「介護食」を提供する飲食店の情報をまとめ、ホームページで公開する取り組みを始めました。(中略)
「介護食」は、かんだり飲み込んだりする力が衰えた高齢者などのために、食材を細かくしたり軟らかくしたりして食べやすく工夫した食事で、一般の飲食店でも提供するサービスが広がっています。
サイトは、決してユーザーフレンドリーではありません。まだ情報も十分に集まっているとは言えない状態ではあります。しかし、研究の方向性は非常に有益なものであり、今後の発展に期待したいところです。
レストランにとっては、こうしたサイトに登録されることは売上につながるため、大事なマーケティング活動でしょう。そうなると、介護食が食べられるレストラン情報というのは、本来は、食べログ、ぐるなび、Rettyといった、レストラン検索の専門サイトの仕事のように思います。
ユーザーフレンドリーという意味でも、こうした専門のレストラン検索の専門サイトのほうが(当然)よくできています。どうして、厚生労働省が、民間のレストラン情報を取り扱うサイトの構築と運用を行なおうということになったのでしょうか。予算も限られているはずなのに、です。
逆に、レストラン検索の専門サイトを調べてみると、介護食を提供してくれるレストランの検索は、まだ対応がほとんどなされていないことに気がつきます。これはおそらく、こうしたレストラン検索の専門サイトでは、まだ「介護食」という検索が少ないからではないかと思います。
外食で介護食を求める人(需要)が増えれば、市場はそれに対して敏感に反応(供給)します。レストラン検索の専門サイトが、まだ、介護食を提供してくれるレストラン検索に(ほとんど)対応していないのは、顕在化している需要が少ないからだと考えられるのです。
その意味では、この記事で取り上げたような、厚生労働省によるイニシアチブの必要性が理解できます。そこで十分な量のレストラン情報が出れば、レストラン検索の専門サイトの営業も、レストランに対して「介護食の提供ができますか?」という質問をするようにもなっていくでしょう。
介護食が必要な人は厚生労働省のサイトを閲覧し、一般の人はレストラン検索の専門サイトを閲覧するという「分断」こそ、いちばん大きな問題です。本来は、こうした「分断」のない、ノーマライゼーションという理想の方向に発展していくべきところが、逆になっています。
あるべき姿を考えると、なんらかのハンデがあっても、それを感じさせないような環境の構築が大事です。環境のほうが、ハンデを持った人に近づいてくる必要があるのですから、本来であれば、やはり、レストラン検索の専門サイトこそ、車イスでの入店や、介護食への対応を急ぐべきところなのです。
ただ、営利を求める民間企業としては、そこまで対応すると赤字になってしまうのでしょう。であれば、この記事で取り上げたようなプロジェクトは、最終的には、そうしたレストランの情報をまとめたデータベースを、民間に無料で開放するようなところが着地になるはずです。
※参考文献
・NHK NEWS WEB, 『外食でも介護食を 提供の飲食店をネットで紹介』, 2017年2月5日
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