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介護施設における虐待は、介護職員だけの問題なのか?

介護施設における虐待

介護施設における虐待問題の両面性

虐待はよくないことです。それはそれで、正しい意見です。ですが同時に「なぜ、虐待が起こってしまうのか」という視点も必要だと思います。特に、家族の介護をしたことのない人だと、ここは分かりにくい部分だと思います。

在宅で認知症などの精神的な介護をしたことがあると、たとえ相手が愛する家族だとしても、虐待か、その一歩手前の感情を経験することがあります。極端には「死んでもらいたい」と考えてしまって、自分のその感情に驚き、自己嫌悪することもあります。

マスコミでは、虐待をしてしまう心理についての調査報道が足りていないと思います。それは、虐待をしてしまう介護職員が悪いところもあるでしょう。しかし、善人であっても虐待をしかねないのが、介護の現場なのです。

介護に疲れてしまい、家族を殺してしまうケースもニュースになります。これを、極端なケースと考えると間違います。こうしたことは、誰にでも起こりうる話だと思うのです。「そんなことはない」と言い切れる人は、おそらく、重い認知症などの精神的な介護をしたことがない人ではないでしょうか。

こうした中、少しだけですが、介護職員の立場にたった報道がありました。FNNローカル(岩手、宮城、福島)の2015年10月19日の放送です。報道局が自らYouTubeにチャンネルを持って、動画を公開してくれるのは、本当にありがたいですね。
 

ベテラン介護職員の言葉を選びながらのコメント

この動画の中では特に、介護士歴9年のベテラン職員、佐藤ゆきさんのコメントが、本当に迫力があります。はじめ(00:50〜01:10)の登場シーンで、佐藤さんがいかに優しさと善意にあふれた人であるかがわかります。その佐藤さんが、虐待のニュースについて、後(03:19〜04:08)に次のように語るのです。

勤務的にも、精神的にも厳しかったのかなと。いろんな葛藤があったのかなと感じました。率直には。それはしてはいけないことだけれども。

やっぱり日々、入居者様の状態が変わることも少なくないので、難しさっていうのは、すごくあると思います。混乱しちゃったり、ちょっとカッとなる、感情的になることもあるのかな、と思います。

それは、いけないことです。ですが、その人の気持ちもよくわかると述べています。だからこそ、自分に注意しないといけないという意味でしょう。どう見ても善良な人が、時には虐待したくなる気持ちと戦っているということです。

虐待防止になにが必要なのか

「虐待は、けしからん!」と叫んでも、なんの意味もありません。罰則を重くしても、愛する人すら殺してしまうようなこともあるわけで、意味がありません。本当に大事なことは、まず、社会全体が「介護現場の苦しみ」を少しでも理解することだと思います。

社会が「介護現場の苦しみ」をより理解し、それを取り除くための環境を整えた上で、虐待する気持ちになった場合の駆け込み寺を準備する必要があります。マスコミ各社は、もっとこの点に関する啓蒙活動をする義務があると思います。

介護離職ゼロは、とても大事な政治目標です。同時に、虐待ゼロという目標も掲げ、介護現場の現実を改善する政策も準備し、実行していただきたいです。そうした公約を掲げ、実現できる政治家を応援したいです。
 

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