KAIGOLABの最新情報をお届けします。
高齢者施設というのは、社会福祉の理想であるノーマライゼーションの視点からすれば、隔離のひとつと言えるものです。本来であれば、介護が必要だからということで、外界との接触が難しくなる高齢者施設に閉じ込めてしまってよいはずもありません。
とはいえ、日本における介護の現実を考えれば、こうした高齢者施設がなければ、社会として成立しないのも事実です。残念ですが、現状では、仕方のないこととして、高齢者施設というものが存在しています。ただ、社会福祉先進国のデンマークなどでは、高齢者施設からの脱却が(少しずつ)進んできています。
こうした中、高齢者施設から、問題となっている隔離というアクションを撤廃し、地域に開放して、街にしてしまうという試みが仙台にて開始されました。以下、河北新報の記事(2018年6月30日)より、一部引用します。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と同じ敷地内に、保育園、飲食店などを併設する多世代複合施設「アンダンチ」が7月1日、仙台市若林区なないろの里にオープンする。医・食・住を組み合わせ、敷地を「街」として地域に開放する高齢者向け介護施設は全国で例がないという。(中略)
地域の多様な世代が訪れやすいよう、サ高住に駄菓子屋を併設し、アスノバはレンタルスペースとしても活用。レストランは地元の食材を積極的に使い、サ高住や保育園の食事も提供する。(中略)地域通貨の導入、地域住民との交流イベントも予定している。
このニュースで気になるのは、こうした開放をするのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)であるという点です。サ高住というのは、建前としては介護施設ではなく、高齢者が暮らすことに特化している賃貸住宅です。あくまでも賃貸住宅ですから、もともと、外部に対して開かれています。
とはいえ、実質的には、サ高住で暮らしている多くの高齢者が、介護を受けています。そのほうが、サ高住を経営する企業も利益になるからです。結果として、サ高住は、実質的には介護施設化してしまっています。しかしこれは、外部に対して開かれた介護施設という理想が実現されているとも言えるわけです。
ざっくりとした計算ですが、サ高住に暮らしているのは、高齢者全体の約5%になります。入居費用は通常の賃貸と比べれば高めですが、一般には、介護施設ほどにはお金がかかりません。今後、こうしたサ高住が地域にもっと開かれて便利になっていけば、ノーマライゼーションの理想に近い街ができる可能性もあります。
ここで難しい話になりそうなのが、仮に、サ高住が大成功した場合、それがスムーズに全国に広がっていくかという部分です。実は、サ高住は国土交通省の管轄であり、一般の介護施設は厚生労働省の管轄なのです。サ高住が大成功した場合、その事実を、厚生労働省が柔軟に認めていけるかが重要な鍵になります。
ある意味で、サ高住と介護施設という、2つの異なる施設が、日本では実験されてきたとも言えます。その結果としてもし、サ高住の形態のほうが優れているとなった場合、介護施設を展開してきた人たちは、なんらかの責任が問われることになるでしょう。
日本全体が、在宅介護に向かわざるをえない状況になっていて、サ高住は、在宅と施設の中間という絶妙な立ち位置になっているようにも見えます。これと似た形式が、無届けの介護ハウスとして問題になってきましたが、こうした介護ハウスもまた、実質的な意味において社会に必要とされており、正式に認可していく仕組みが求められます。
※参考文献
・河北新報, 『高齢者施設に保育園や飲食店併設 「街」として地域に開放 仙台「アンダンチ」7月オープン』, 2018年6月30日
KAIGOLABの最新情報をお届けします。