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現在の日本の要介護者は、約85%が在宅(自宅)で介護されています。いわゆる老人ホームでの介護を受けているのは約15%にすぎません。在宅での介護を希望している人が多いからというよりも、現実には、特養(特別養護老人ホーム)に空きがないということが真の原因と考えられています。
特養は、公的に運用されている老人ホームであり、充実したサービスが安価で受けられるようになっています。民間の老人ホームは月額平均で25万円以上かかるのに対して、特養であれば年金で無理なく入居できるため、非常に人気が高いのです。まさに長蛇の列ができているのです。
この特養の入居待ちをしている人は公式には約37万人とされます。しかし実際には、この数字は入居条件の厳格化によって低く抑えられているという背景を理解する必要があります。現実には、在宅での介護が困難で、なんとか特養に入りたいという高齢者は100万人以上いると言われることもあります。
多数の高齢者が入居待ちをしているという特養なのですが、実は、ベッドは2万床も空いていることがわかっています。その原因は、介護職員の数が足りず、高齢者を受け入れることができないことにあります。介護業界は有効求人倍率が3倍を超える業界であり、特に東京と愛知では5倍を超えるほど人が足りないのです。
そうした中、埼玉県における新規の特養建設に「待った」がかかりました。背景にあるのは、やはり、人材不足です。待機者の数も、先に行われた入居条件の厳格化(要介護3以上でないと入居できなくなった)によって、計画とズレが出てしまっています。以下、朝日新聞の記事(2018年3月13日)より、一部引用します。
特別養護老人ホーム(特養)の整備計画などを検証する埼玉県議会の特別委員会は12日、介護職員の確保策が不十分などとして、県が解決策を示さなければ新増設を認めないとする決議を自民党と無所属改革の会の賛成多数で可決した。(中略)
決議は、県が昨年4月時点の特養入居待機者を9047人としながら、1年以内の入居希望者は5284人とも報告し、本当に必要な待機者が不明確▽県の調査で、702床の空床があるにもかかわらず、入居待機者の解消などに活用する施策がない▽18年度から3年間で増える3679床のために、新たに必要な約1800人の介護職員の確保策が示されていない――などとして、解決策を6月定例会で報告するよう県に求めた。(後略)
介護現場では、97.5%が人材不足を感じているという報告もあります。この報告では、この解消には賃上げが必要と考える人も84.4%になっています。日本の景気は上向いていますので、今のままでは、介護業界の人材不足は改善されるどころか悪化してしまう可能性も高いのです。
そもそも、介護業界で働く人材が増えるということは、失業率の極端に低い日本においては、異なる業界から人材を奪うということでもあります。しかし、介護業界の待遇は、全63業界中、ダントツの最下位というのが現実なのです。どう考えても、このままで介護業界に人材が集まることはないでしょう。
これは、自分の親に介護が必要になったとき、そしていつか自分自身に介護が必要になったとき、その介護を担ってくれる人材がいなくなるということです。親の介護のために介護離職をすれば、いずれは自分が生活保護になる可能性が高まります。そして自分を介護してくれる人材がいなければ、死のリスクが出てきます。
人間は、将来よりも今を優先する生き物であり、予防や準備が苦手な生き物です。しかし、いまここで本気で介護業界の待遇改善に動かないと、多くの人が路頭に迷うようなハードランディングになってしまいます。それもやむなしとする空気ができつつあることが、なんとも恐ろしいです。
※参考文献
・朝日新聞, 『特養の入居待ち37万人、「隠れ待機者」の存在も浮上』, 2017年3月28日
・朝日新聞, 『新しい特養整備に「待った」 介護職員の確保策、課題』, 2018年3月13日
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