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介護離職ゼロは、現政権が打ち出した新三本の矢(2015年9月24日)のうちの1本です。政府の主要な3大政策の中に、介護が正面から扱われるのは、これがはじめてのことでした。本当の意味で介護離職をゼロにすることは実質不可能なのですが、介護離職を、国の主要な政策のうちの1本とした点は評価できます。
具体的な内容(1億総活躍社会・緊急対策)としては「介護施設、在宅サービス、サ高住の整備量を(約38万人分から)約12万人分前倒し・上乗せし、約50万人分以上に拡大する」というものです。これによって、特別養護老人ホーム(特養)の整備には、補正予算で約1,400億円が計上されたのです。
しかし、この補正予算は、実際にはあまり使われていないことが判明しました。端的に言えば、介護業界の人材不足が原因で、特養の建設が遅れているためです。以下、yomiDr.の記事(2018年1月22日)より、一部引用します。
「介護離職ゼロ」を目指し、特別養護老人ホームなどを全国で整備しようと、政府が2015年度補正予算に計上した「地域医療介護総合確保基金」約1406億円のうち、17年度までの2年間で使われるのは約221億円にとどまっていることが読売新聞の調査でわかった。
事業拡大に意欲のある介護事業者と、現場で働く人材の不足が主な理由。政府はこの基金で20年代初めまでに10万人分の介護の受け皿を整備する方針だが、現状では9000人程度と目標の約1割で、実現は難しいとの見方も出ている。(中略)
地域別では、特養待機者の多い都市部での利用が低調だ。16年4月時点で1万人以上の待機者がいる都道府県は八つあるが、このうち、東京、神奈川、新潟、愛知、大阪は基金の活用が全くなかった。(後略)
特養は、安価でレベルの高い介護を提供する介護施設です。月額10万円前後での入居が可能なため、年金収入しかない高齢者でも(それほど無理なく)入居することができます。特養は、重い介護に苦しむ家族からすれば、唯一の希望にもなりえる介護施設と言えます。
「特養がなくても、民間の老人ホームがあればいい」と考えている人もいるかもしれません。しかし、民間の老人ホームは、月額25万円程度はかかる覚悟が必要で、さらに入居費用として数百万円以上のお金が必要になることも多いのです。
これだけのお金を払い続けられる人は、そういません。また、ギリギリの予算で入居してしまうと、その後に病気になったりしたときの費用が捻出できなくなったりもします。つまり、特養が十分に供給されないところでは、在宅介護が増えることになり、結果として介護離職も増えてしまう可能性が高いのです。
まだ、介護に関わっていない人にとっては、他人事のように聞こえるかもしれません。しかし、介護は、ある日突然、誰の人生にもやってくる大きな事件です。実際にそれに直面してから準備していては遅いのです。
民間の老人ホームが高額になってしまうのは、様々な国の基準を満たすためのコストが高いからです。この隙間をついて、こうした基準を無視して運営されている無届け介護ハウスが増えてきています。そして、無届け介護ハウスの入居にかかる費用は、特養とあまり変わらないレベルです。
皮肉なことですが、無届け介護ハウスが多いのは、特養に入れずに待っている人の多い都市部です。都市部は土地代も人件費も高いため、特養を建設しようにも、そうそう建てられないという背景があるからです。そしてこうした無届け介護ハウスは、なんと自治体の窓口からも紹介されたりしています。
無届け介護ハウスには、ひどいところもあるのが現実です。同時に、しっかりとした理念をもって運営されているところも存在すると聞きます。しかしだからということで、無届け介護ハウスを黙認し続けることもできません。今後、ますます増えていくことが確実だからです。
もはや、無届け介護ハウスは、社会的に無視できない存在です。であれば、今回、特養の建設に使われなかった補正予算は、こうした無届け介護ハウスを認可し、その安全対策やサービス拡充のために利用するということも検討すべきではないでしょうか。
※参考文献
・yomiDr. 『介護施設整備基金が低調、利用16%…人材不足で』, 2018年1月22日
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